おおた産業メンタルラボ

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「うつ病」はどう良くなるのか その2

重症度別の「うつ病」の治療について、書いてみます。
「職場のー」からは離れますが、できるだけ医学的なことではなくて、ただのメンタル系産業医が臨床的に考えていること、の視点で書きます。

|重症度別の治療の必要性度合い|
・軽症のうつ病は、
精神科受診はしてもしなくても。
仕事の負担を軽減して、休息を増やす。
薬物療法は効果が明確な効果がないこともある。
治療法については後でもう少し詳しく書きます。

・中等症のうつ病は、
明らかに精神科受診した方が良い。外来通院レベル。
薬物療法するべき。
仕事は休職して、しっかりと休息を取り、抗うつ薬が効いてくるのを待つべき。

・重症のうつ病は、
だれが見ても精神科受診が必要。精神科入院が必要なレベル。当然、仕事は休職。
おそらくは自責感、疾病否認があり、入院は拒否する。それでも入院させることが必要。
入院治療により、薬物療法、電気治療、日常生活からの負担軽減が必要。

・最重症のうつ病は、
当然精神科入院が必要。
間違いなく疾病否認があり、入院を拒むが、もはや意思を確認することも困難。
衰弱度合いによっては薬物療法も負担が強いかも。生命維持に関わる状態なので、出来るだけ速やかに電気治療を積極的に行うべき。

|電気治療について|
電気治療とは、正式名称は電気けいれん療法と言います。現代的な方法としては、全身麻酔下、けいれん防止処置下に頭部に短時間の電気刺激を行います。
精神科での手術療法のようなものと思っていただければ。詳しくはここでは省きます。
重症うつ病には絶対的効果が期待できる方法です。
これで一時的にも改善しないのならば、それは「うつ病」ではないのだと私は考えます。

|え?! 軽症だと薬物療法はしなくてもいいの?|
現代の医療では、統計的に治療効果を判定します。
薬物療法の場合であれば、プラセボ(偽薬)と本物の薬を比べて、統計的に有意差があるかあるかどうかで「効果があるか否か」を判定します。
軽症のうつ病では抗うつ薬の効果がプラシボ(偽薬)と差がなかった、ということです。
逆に言うと、抗うつ薬は、中等症と重症のうつ病にしか明らかな効果はありません。

注意してほしいのは、
「Aさんは軽症のうつ病だから抗うつ効果は効かない」ということではないことです。

わかりにくいですね。
総体としての「軽症うつ病」には抗うつ薬は「効かない」が、
「Aさんの軽症うつ病」は抗うつ薬で「良くなる」こともある、ということです。
でもその「良くなった」のは抗うつ薬ではなくてプラシボ(偽薬)でも良くなったかもしれない、というのが科学的に正しい考え方になります。
なので、Aさんが軽症うつ病であると思っても、抗うつ薬を処方することはあります。私にも。間違った治療ではありません。

|軽症うつ病の診断の難しさ|
この状況のもう一つの解釈は「軽症のうつ病は事後的にしか診断できない」ということです。
精神科医がダメだから、だけではなく、「軽症うつ病とは後からの診断である」「軽症のうつ病はうつ病以外の一時的な心理的反応や適応障害、アルコール性のうつと事後的にしか区別をつけられない」ということだと思います。

「専門家なのにそんなことでいいのか」というご意見もありましょうが、
専門家だからこそ「わからない」と言えるのだと思います。

子曰わく、由、女に之を知るを誨えんか。之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。是れ知るなり。 
「論語」為政第二17
子曰、由、誨女知之乎。知之為知之、不知為不知。是知也。

今日はこれくらいで。続きます。