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正解のない社員対応【前編】 会社はどこまで求め、どこまで支援する?

社員にどこまで求め、どこまで支援するのか― 正解のない社員対応の考え方


先日、楠木建教授のAI時代の意思決定についての記事を読んだ。
そこで論じられていたのは、戦略的な意思決定には「外部的な正解」が存在しない、ということだった。

AIは情報を集め、選択肢を整理し、それぞれのメリットやリスクを示すことができる。
しかし、「どれを選ぶべきか」まで自動的に決まるわけではない。

何を大切にするのか。
どのリスクを引き受けるのか。
何を諦めるのか。

それを決めるのは、経営者である。


職場のメンタル問題にも、よく似た構造がある。

精神科産業医も、経営者の代わりに「この社員をどうするべきか」を決める存在ではない。
医学的な状態や就業上のリスクを整理し、必要な配慮や改善可能性を検討し、会社だけでは解決できない部分を区別する。
そうした判断材料を整理することはできる。

しかし、
・社員にどこまでを最低限として求めるのか。
・どこまで成長を期待するのか。
・どこまで会社が支援するのか。
・どこから先を会社だけでは抱え込まないのか。
その基準を決めるのは、会社である。


AIが経営判断を支援しても、経営そのものを代行できないのと同じように、精神科産業医も経営判断そのものを代行することはできない。
だから必要なのは、「正しい社員対応」を探し続けることではない。

<自社として、何を求め、どこまで支援するのかを決めること>である。

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AIによって仕事と人の関係が変わるとき、産業医には何ができるのか

AIが普及すれば、人の仕事は減っていく。
ここしばらく、そのように語られてきた。

営業職や税理士などは、AIに代替されやすい職業として挙げられることも多かった。
ところが最近、その予測とは異なる事例が語られている。

ある大手企業では、
AIを営業の準備、育成、商談分析に活用した結果、
商談の創出が増え、デジタルセールス部門の人員が拡大した。

AIによって営業職が不要になったのではない。
AIを使うことで営業活動の範囲が広がり、さらに多くの人が必要になったのだという。

一方、税理士業界では、
税理士試験の受験者数が長期的に減少し、税理士事務所の人手不足感が強まっているという。

その背景について、「税理士はAIに代替される」という予測が広がったことで、資格取得を目指す人が減ったのではないか、という見方をする人もいる。
もちろん、AIへの不安だけで人手不足を説明することはできない。
高齢化、給与水準、繁忙期への業務集中、クラウド会計の普及による収益構造の変化。複数の要因の重なりである。

それでも、二つの事例には共通点がある。

AIは、人を単純に減らしているのではない。
人が必要とされる場所と、人に求められる能力を変えているのである。

AIによって、人の仕事は簡単になるのか


AIが導入されれば、情報収集、文書作成、要約、分析、記録といった作業は効率化される。
数時間かかっていた仕事が、数十分で終わることもある。
初心者であっても、AIの支援を受ければ、一定水準の資料や文章を短時間で作成できる。

しかし、AIが処理できる仕事が増えるほど、人にはAIが処理しにくい仕事が残る。

相手の意図を読むこと。
利害を調整すること。
例外に対応すること。
曖昧な状況で判断すること。
結果について責任を負うこと。

人間の仕事がなくなるというより、人間に残る仕事の難度が上がっていく。

以下は、今後多くの企業で起こり得る状況を組み合わせた架空の例である。

AIを使える若手と、AIの限界を見抜くベテラン


ある中小企業では、営業資料や顧客への提案書の作成に生成AIを導入した。
若手社員はすぐに使い方を覚え、これまで数時間かかっていた資料を短時間で作れるようになった。
文章は整い、見栄えも悪くない。上司からは、「仕事が早い」「新しい技術への対応力が高い」と評価された。

一方、長年その業界で働いてきたベテラン社員は、AIの操作に慣れるまで時間がかかった。
資料を作る速さでは、若手社員に及ばない。

しかし、若手社員が作成した提案書を確認したベテラン社員は、内容に違和感を覚えた。
一般論としては間違っていない。
だが、その顧客の現場では、過去に同じような提案が失敗していた。

設備の制約。
現場責任者の考え方。
社内の意思決定の順序。

そうした事情を踏まえると、そのまま提案しても通らないことを、ベテラン社員は経験から知っていた。
内容を修正したことで提案は現実的なものになり、商談は前に進んだ。

AIを使う力と、AIの限界を見抜く判断力は、別の能力である。
企業には、この二つをどのように組み合わせて評価するかが問われる。

AIによって、若手が早く一人前に見えるとき


別の会社では、顧客へのメール、提案書、議事録の作成に生成AIを活用し始めた。
入社して間もない若手社員も、短時間で整った成果物を作ることができる。

以前であれば、先輩社員の仕事を見ながら、少しずつ顧客対応を覚えていく必要があった。
ところが、AIの支援によって、若手社員でも早い段階から仕事を任せられるように見える。

上司は考える。
「これだけ資料が作れるなら、もう一人で顧客対応ができるだろう」

しかし、顧客から想定外の質問を受けたとき、どこまで答えてよいのか、何を約束してよいのか、誰に確認すべきなのかを判断することは簡単ではない。
知識はAIで補えても、責任の範囲を理解し、相手の反応を見ながら対応する力は、経験なしには身につきにくい。
それにもかかわらず、「AIがあるのだから早く成果を出せるはずだ」と期待されれば、若手にかかる負担は強くなる。

仕事ができるように見えることと、安心して仕事を任せられること。
両者は同じではない。

AIを使えない社員は、能力が低いのか


さらに別の会社では、業務効率を上げるために生成AIを導入した。
会社は研修を行い、社内文書、情報収集、顧客への回答案、会議資料の下書きなど、幅広い業務での活用を推奨した。
導入から数か月がたつと、社員の間に差が現れた。

ある社員は、AIに適切な指示を出し、出力を修正しながら、仕事を早く進められるようになった。
一方、別の社員は、なかなか使いこなせなかった。

何を入力すればよいのか分からない。
回答をどこまで信用してよいのか判断できない。
修正するより、自分で最初から作った方が早い。
その社員の仕事は、周囲より遅れるようになった。

上司は次第に、「新しいやり方を覚える意欲がない」「変化に対応できない」と考え始める。

AIが業務上必要な道具になれば、それを使えるかどうかが能力評価に含まれるのは避けにくい。
新しい道具を使い、成果を出せる社員を高く評価することには合理性がある。

当面、AIへの適応力は、新しい評価軸になっていくだろう。
ただし、その差をすべて本人の意欲や能力だけで説明してよいとは限らない。

研修や練習時間が不十分だったのかもしれない。
日常業務が忙しく、試行錯誤する余裕がなかった可能性もある。
睡眠不足や心身の不調によって、集中力や判断力が落ちていたのかもしれない。
認知特性によって、曖昧な指示を調整しながら使うことが苦手な場合もある。

もちろん、十分に教育し、時間を与えても、必要な水準まで適応できないことはある。
その場合には、配置や役割、評価について、会社が判断しなければならない。

重要なのは、AIを使える人と使えない人を分けることではない。
その差がなぜ生じているのかを見極めることである。

AI時代に難しくなるのは、人を減らすことより、人を見立てること


AIの導入によって、仕事の速度が上がる人がいる。
経験とAIを組み合わせ、新しい価値を生み出す人もいる。

一方で、変化についていけない人、早くから重い責任を任される人、判断する仕事ばかりが残り、かえって疲弊する人も現れるだろう。
こうした問題は、単純な能力評価だけでは扱えない。

病気。
能力。
認知特性。
教育。
業務設計。
上司との関係。
組織の変化速度。

複数の要因が重なっているからである。

本人が不調になったからといって、原因が本人の内側にだけあるとは限らない。
反対に、組織に問題があるからといって、本人に求められる能力や努力を曖昧にすることもできない。

AI時代に企業が問われるのは、人をどう減らすかだけではない。
人と仕事の間で何が起きているのかを、どう見立てるかである。

企業の外にいる産業医にできること


ちょっと大きく風呂敷を広げてみる。

AIの波により、職場や世の中に大きな変化が起きるとき、
その波に揺さぶられ、労災とまではいかなくとも、健康を害したり、苦しさが作られてしまう。
そんな状況で産業医は何をするのか。

社員に起きている問題が、健康上の問題なのか。
業務への適応の問題なのか。
能力や適性の問題なのか。
教育や業務設計の問題なのか。
それらがどのように重なっているのか。

これらを医学的な視点から整理すること。
そこに尽きる。

産業医は、AI導入の専門家ではない。
経営者でも、人事担当者でも、本人の上司でもない。
企業の外にいる専門家である。

一方で、会社の業務内容や職場環境を知り、本人の話を聞き、企業側の事情も踏まえながら、人と仕事の間に何が起きているのかを考えることができる。

企業の外にいながら、現場のすぐそばで、状況を聞ける立場。
そこに産業医の意味がある。

会社の要求が現実的なのか。
教育や移行期間は十分なのか。
本人の健康状態が仕事に影響しているのか。
配慮や業務調整によって改善するのか。
それとも、現在の役割への適応には限界があるのか。

働く人を一方的に守るのでも、企業の都合だけを優先するのでもなく、その職場で実現可能な最善を考える。

AIによって仕事と人の関係が変わる時代。
産業医には、企業の外にいながら、その変化のすぐそばで、人と組織の間を整理する役割が求められていくのではないだろうか。


なんて夢を見た。

猛暑対策展2026に行ってみた。後編

今年はプレクーリングがアツイ!


暑い環境へ入る前に身体を冷やしておく「プレクーリング」は、
熱中症対策として有効だとされていて、
今年2026の厚生労働省の肝いりみたいです。

会場でも、
手や前腕、下肢、それから全身を氷水などにつけて冷却するアイスバス系の製品が展示されてました。

実際に身体を冷却するという点では、効果は期待できる、のでしょう。

ただ、装置として考えると、
新たな製品を購入しなくても、
クーラーボックスと氷水があれば、
比較的簡単に実施して、効果検証できそうでもあります。

それでも普及しないのは、
準備が必要であること、
手が濡れること、
準備だって実施する管理が必要になることなど、
小さな手間が意外に大きな障壁になるからでしょう。

そして、どれほどの効果があって、
熱中症予防に有効なのか。

細かくは、深部体温の低下効果がどのくらいの時間持続して、
どれくらいプレクーリングを繰り返したらいいのか。

手軽にできそうであるだけに、簡単に実行できる方法は、
かえって効果を低く見積もられやすいという面もありそう。

モトム、実証実験


どうしたら広まっていくか。
やっぱりここは実証実験じゃなかろうか。

例えば、どこかの地域で、
高校野球の試合前とか、交代のタイミングで5分間の手掌冷却を標準化し、
熱中症や体調不良がどれほど減るかを検証する。

これが実現できて、効果が報道されたりすれば、
一気に普及するかもしれません。
でもなー、試合時間短縮の流れには逆行するなー

スポンサーになるとすれば、
クーラーボックスメーカー、釣具メーカー、アウトドアメーカーあたりでしょうか。

関係者の皆さん、いかがでしょう。
Want’s You !

追記:
夏の高校野球全国大会では、
クーリングタイムの導入、首/手のひらの冷却、アイススラリーの利用など、準備されているようです。
その成果が世に出る日も近い!かな?

「冷たく感じる」と「体温が下がる」は別モノ


医師として展示を見ていて気になったのは、
冷感や清涼感と、実際の身体冷却とが
意識してかしないでか、
混同されやすいこと、混同していること。

冷たいと感じることと、
実際に身体の熱が逃げ、体温が下がることは同じではない。

メントールなどによって皮膚に冷感が生じれば、
本人は気持ちよく感じることだろう。
でも、それで深部体温が下がったり、
熱中症予防効果があるわけではない。

子どもの発熱時に、額へ冷却シートを貼る対応も見かけるけれど、
本人が快適に感じる効果はあるかもしれませんが、
体温を下げるための医療的な冷却とは区別して考える必要があって。

世界がもっと合理的になってほしい。
まあそういうこと。

気化冷却の可能性


熱中症対策をうたうのであれば、
単に涼しく感じる、ということではなく、
実際に熱を逃がす、体温の上昇を抑える、
身体を冷却するといった効果を求めないと、逆に危険。

会場でも、
単なる接触冷感や遮熱ではなく、
発汗や気化熱を利用して放熱を促進する素材を使った衣服などが並んでいました。
汗の蒸発を妨げず、効率よく放熱できるアンダーウェアなどには、
可能性を感じました。

ただし、衣類は消耗品でもあるから、
価格や流通、買い替えやすさまで含めると、
ワークマンのようなSPA大手に対抗できる製品をつくるのは簡単ではなさそう。

装置で行けば、
ミストを利用した気化冷却なども展示されていました。

気化冷却は、実際に気温も下がるし、
エアコンや大きな送風機のように、
「送る風は冷風だけれど、その裏では熱風を噴き出して、トータルでは発熱の方が多い」
といったおかしな状況も生まないので、
これからもっと注目されていっていい装置だと思います。

特に、会場の報道の目玉にも取り上げられていた、
「濡れないミスト発生器」は、
人や製品に影響を及ぼしにくいので、
普及していったら良いです。

「起きなかったこと」の証明の難しさ


あらためて熱中症対策の難しさを感じるのは、
対策そのものだけでなく、何をもって効果があったと判断するか

たとえ熱中症が起きなかったとしても、
それがどの対策の効果だったのか、
単にその日の気温が低かったのか、
作業量が少なかったのか、
個人差によるものなのか、
そういった多要素を判定することは困難です。

深部体温や皮膚温の一時的な低下を測定することはできても、
その変化が長期的に熱中症発生率、欠勤、労災、作業効率などなどに、
どの程度影響するか、
それと関連して考えることはとても困難です。

熱中症が起きなかったという成果は、
数字の上では見えにくい「暗数」になるので、
そのため企業側も、どの対策にどれだけ費用をかけるべきか判断しにくい。
といって、
安全配慮義務であったり、働きやすさであったり、そんな無視できない要素の一部になってきています。

展示会では分かりやすく見える装置も、
現場に持ち込んだ瞬間に、
費用、運用、継続性、評価方法という問題に直面します。

アイデアが生まれること、
製品になること、
現場へ普及すること。
その間には、それぞれ別の「死の谷」があるのだあ、と。
そんな最先端が、
熱中症対策の界隈には集まっているように感じました。

熱中症対策とは、職場文化


熱中症になりやすい背景には、
作業環境の暑さだけではなく、
オーバーワーク、疲労の蓄積、休憩不足、睡眠不足、体調不良などもあります。

「本人の体調管理が悪かった」
「寝不足だったのではないか」
「暑さに慣れていなかった」
といった自己責任論にも傾きやすい問題です。

暑熱順化によって暑さへの耐性が備えられることも間違いなくあり、
熱中症対策の大切な要素なのですが、
それが「根性が足りない」「準備が足りない」というような話に置き換わってしまってうこともないとは言えない。

しかも、暑い場所で働く職場は、
気張って体を張って頑張る、いわゆるマッチョな職場であることが多いのは、否定できない事実です。

頑張っている人が評価される、
これはとても大事だし、正しいことであると、
素直に思うのと同時に、

職場で、
「気分が悪い」
「少し休ませてほしい」と、

体調不良を申告できたこと、
休みたいと申し出られたこと、
助けを求められたことを評価すること。

異常を我慢した人を褒めるのではなく、
早い段階で助けを求められた人を評価する。

この文化がなければ、
どれだけ優れた設備やウェアラブル機器を導入しても、
十分に機能しません。

熱中症は、本人の体調管理だけでも、会社の設備対策だけでも防ぎきれません。
作業環境、業務量、休憩、本人のコンディション、周囲の声かけ、職場文化が重なって発生します。

助けを求めることを保証し、
助け合える文化を育てていくこと、
そんな職場文化をどう豊かにしていくのか、
そんなことも熱中症対策としてはど真ん中だと思うのです。

番外編:プラントメンテナンス展も面白かった


東京ビッグサイト西展示棟では、
「テクノフロンティア」など複数の展示会が同時開催されていました。

フィジカルAIをはじめとする新しい技術も注目されていましたが、
個人的に特に面白かったのは、プラントメンテナンス関係の展示。

図鑑の中でしか見たことがなかった橋梁点検車の実物展示などもありましたが、
既存の設備をどのように点検し、補修し、使い続けるのか。
設備の稼働を止めずに、どのタイミングでどのようにして新しい設備へ置き換えていくのか。
これまで人力と経験と気合で行ってきた作業を、どのように省力化するのか。

こうした技術は、
業務効率を高めるだけではなく、
危険作業を減らし、結果として労災を減らすことにも生かせるのではないか、そんなことを考えてワクワクさせてもらいました。

そんな安全のための改良にも取り組める産業医でいたいなあ、と。

現場に合った対策を選ぶ必要がある


猛暑対策展で感じたのは、
熱中症対策の商品や技術が急速に増えている一方、
どの対策を、どの職場で、どのように使用すべきか、
それを判断することはやはり簡単ではないということ。

設備を改修する方法もあれば、作業者本人を冷やす方法もあります。

水分や塩分を補給する方法、
身体状態をモニタリングする方法、
発生後に速やかに冷却する方法もあります。

重要なのは、涼しく感じるかどうかではなく、
実際に体温上昇を抑えられるのか。
現場で無理なく継続できるのか。
異常を検知したときに、休憩や作業中止につなげられるのか。
そして、体調不良を言い出せる職場になっているのか。

熱中症対策は、一つの製品だけで完結するものではないし、
山盛り対策製品をつぎ込んだら良いものでもない。

設備、服装、水分補給、休憩、体調管理、職場文化、
そんな職場の総合力が問われるのフロンティアが、
熱中症対策なのではないかと感じたことでした。

アンドモアー


後半は、熱中症対策から派生して、ちょっといろいろと思ったこと、でした。

しかしこの暑い夏がこのままいって、
来年になったら「酷暑対策展」になっているんだろか?

猛暑対策展2026に行ってきましたよ。前編

2026年7月15日から17日まで、東京ビッグサイトで開催された「猛暑対策展2026」に行ってきました。

関連ニュース

猛暑対策展/ウェアは「ペルチェ」「気化熱」で多様化、建物の遮熱や応急グッズも注目東京ビッグサイト(江東区)で7月15~17日に開催されている「第12回猛暑対策展」が、注目を集めている。 猛暑の常態化、www.lnews.jp


会場を歩き始めたときは、正直なところ、
「今年は少し出展が少ないのかな」と思ってました。

でも実は、会場が複数のエリアに分かれており、
まだ全体の半分ほどしか回れていなかった、
ということに程なく気づきました。

今年は約190社が出展し、過去最大規模だったそうで。
あらためて、熱中症対策が一つの大きな市場になっていることを実感したことでした。

展示されていた熱中症対策のもろもろ


展示されていた製品やサービスは、多岐にわたり、語りつくせませんが、
思いだして整理してみると、以下のような感じでしょうか。

作業環境を冷やすもの

工場内で使用するスポットクーラー、送風機、ミストを利用した冷却装置、屋外で使用する小型のエアコンテントなど。

工場全体の空調を改善する大規模な設備から、
作業者の周辺だけを冷やすポイント冷却まで。

建物への熱の侵入を減らすもの

屋根や外壁に使用する遮熱塗料、遮熱材、空調効率を高めるための改修など。

建物そのものに手を入れ、室内へ入ってくる熱を減らすという発想。

作業者本人を冷やすもの

空調服、水冷式の冷却服、ペルチェ素子を利用した装備、
放熱性や気化冷却を重視した衣類など。

暑い環境そのものを変えるのではなく、
作業者の身体を直接冷却するアプローチ。

水分や塩分を補給するもの

アイススラリー、経口補水系の飲料、塩分補給剤、
それに気化冷却に加え冷感や清涼感を売りにした汗拭きシートなど。

熱中症対策では水分だけでなく、塩分補給や身体内部からの冷却も重要。

身体状態をモニタリングするもの

ウェアラブルデバイスなどを使って、
皮膚温や体温の変化、心拍数、発汗量などを測定し、
熱中症リスクの上昇を知らせる製品。
これは一大グループ。

本人が体調不良を自覚する前に異常の兆候を捉えられる可能性があり、
多数の作業者を管理する職場では期待が大きい分野です。

一方で、測定している数値が何を意味するのか、警報が出た後に誰がどのように対応するのかまで決めなければ、実際の対策にはなりません。

モニタリング機器は、異常を検知した後に休憩させる、作業を中止する、冷却するといった運用とセットになって、初めて意味を持つことを再認識。

熱中症発生後に対応するもの

緊急時に身体を冷却する器具や、冷却機能を備えた寝袋型の担架など。

予防だけでなく、発症後にいかに早く身体を冷却し、搬送するかという視点。

馴染みのあるブランドは強い


展示を見ていて面白いと感じたのは、
シーブリーズ、ギャツビー、ビオレといった、
普段から馴染みのあるブランドが熱中症対策の分野に入ってきていたこと。

一般消費者向けの商品としてすでに認知されているため、
見ただけでその匂いや使用感を想像できます。

特にシーブリーズは、
現場で働く中高年男性に刺さるのではないかと。
少なくとも、自分には直撃でしたね。

新しい技術を一から説明するより、
すでに知られているブランドを熱中症対策に持ち込む。
現場への導入につなげる賢い方法かもしれないと感じたことでした。

設備型対策は、費用対効果の証明が難しい


今さらだけど、再認識。

遮熱塗料や空調改修は、展示会場に設置された実証装置を見ると、
効果は分かりやすい。

実際に手を入れてみると、
「確かに温度が違う」
と感じる。

けれども、実際の工場に導入するとなると話は単純ではない。

建物の広さ、屋根の材質、断熱性能、作業内容、既存空調の能力など、
条件は職場ごとに異なって。

施工にどの程度の費用がかかるのか、
熱中症の発生リスクがどれほど下がるのか、
冷房用の電気代がどれほど減るのか、
そして効果は何年間持続するのか。

こうした費用対効果を事前に証明することは容易ではありません。

太陽光発電はすごく良いのだけれど


物理的に日陰をつくること以上に有効な対策は、なかなかない。

夏の屋根上の太陽光パネルは、
日射を遮りながら発電し、
その電力で冷房を動かすので、
非常に合理的。

でも、古い工場や倉庫では、
屋根が太陽光パネルの重量に耐えられず、設置できないという問題がある。

日本の得意分野だという、軽量なペロブスカイト太陽電池であれば、
設置できる建物が増える可能性があるのかな。
ただし、現時点ではコストや発電効率、耐久性などに課題があるのでしょう。

風の強い群馬で暮らしている立場からすると、
軽くて薄いという特徴は、耐候性の面で問題になったりして。

熱中症対策に白い安全靴!


会場でアイデア勝負でちょっと光っていると思ったのは、
白い安全靴を展示して売り込んでいる会社。

遮熱素材とか使っているかと思いきや、
「色の違いだけです!」って。
オトコマエ。

でも、やっぱり物理学は強いですからね。
白いものを身に着けて、熱から守る。
理にかなってます。

はっさく由来成分で熱中症対策

身体の内側から「血管を守る」という発想

もう一つ、これまでの熱中症対策とは少し異なるアプローチとして興味を引かれたのが、
柑橘類、特にハッサクの果皮に多く含まれる「オーラプテン」という成分を使ったサプリメントの展示。

暑熱ストレスによって血管内皮細胞が障害されることに対して、
オーラプテンの摂取によって血管を熱によるダメージから守られるのだそうです。

熱中症対策というと、水分や塩分を補給する、身体を冷やす、暑さを避けるといった方法が中心です。
それに対して、身体の内側から暑熱ストレスへの耐性を補助するというのは、新しい感じ。

もちろん、現時点で水分・塩分補給、休憩、作業環境の改善、身体冷却に代わるものではないし、
研究結果を、実際の熱中症発症率の低下へどこまで結び付けられるかについても、今後の検証が必要でしょう。

東洋大学の発表では、オーラプテンを配合した飴やドリンクなどの商品化が予定されているとのことですが、
しかし、私が調べた範囲では、解説や研究紹介は見つかるものの、
今回展示されていた、実際に購入できる具体的な商品には、まだうまく行き当たりませんでした。

【東洋大学NewsLetter】ハッサク成分「オーラプテン」で熱中症対策 東洋大学が世界初の発見! ~水分・塩分の補給だけでは防げない?!「熱中症対策に“血管を守る”」新常識~【東洋大学NewsLetter】ハッサク成分「オーラプテン」で熱中症対策 東洋大学が世界初の発見! ~水分・塩分の補給だけwww.toyo.ac.jp


興味深いアイデアが生まれること。
研究によって効果の可能性が示されること。
それを安定した製品にすること。
さらに、一般の人や職場で継続的に使われるところまで普及させること。

それぞれの段階の間に、別々の「死の谷」があるのでしょう。


そんなで、長くなってきたので前編はここまで。
後編にもこうご期待。

パワハラ対応をダメ出しで終えない 後編

被害者を守り、有能だが危うい管理職をどう再生するか


前編では、「誰が悪いか」という議論から始まるハラスメント対応が、会社にとって本当に大切な問いを見失わせることがあるとお話ししました。

相談者を守らなければならない。
しかし、有能な管理職を安易に「加害者」と決めつけて潰すことも、会社にとって避けなくてはならない。

そして、多くの会社は、
「これはハラスメントですか」という問いに意識が向きすぎるあまり、
「相談者の健康をどう守るか」
「管理職をどう立て直すか」
という問いまでたどり着けていません。

後編では、ここから一歩進めて、

会社は何から手を付けるべきなのか。
産業医は何をして、何をしてはいけないのか。

そして、
有能だが危うい管理職を、組織を壊さない管理職へどう再生していくのか。
について、私なりの考えをお話しします。

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