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困った新入社員にどう対応する?違和感を早期に見極める方法【後編】職場とのミスマッチをどう見極めるか

採用前から試用期間までにできること


前編では、職場で問題となる行動は、本人の特性だけでなく、職場環境との相互作用によって形成・増幅されることがあると説明した。

だからといって、企業がすべてを受け入れ、際限なく調整を続ける必要はない。

本人に悪意がなくても、その職場で求められる働き方に適応できないことはある。企業側が一定の調整をしても、業務上・対人上の問題が繰り返される場合もある。

大切なのは、採用時に「問題のある人物」を完全に見抜くことではない。

本人と職場とのすれ違いに早く気づき、双方が歩み寄れるのかを確かめること。そして、調整しても難しい場合には、深く傷つけ合う前に方向転換を検討することである。

そのために、企業が採用前から試用期間までにできることを考えてみたい。

採用前に「職場の現実」を伝える


採用活動では、企業も候補者もよい面を見せようとする。

しかし、魅力だけを伝えて採用すれば、入社後に「聞いていた話と違う」というミスマッチが起こりやすい。

求人票や面接では、仕事の魅力だけでなく、

  • 上司への報告や確認がどの程度必要か
  • 手順と裁量のどちらを重視するか
  • 急な予定変更や突発対応がどの程度あるか
  • 個人作業とチームでの調整がどの程度あるか
  • 繁忙期の業務量はどの程度か
  • どのような働き方が評価されるか

など、その職場で仕事を成立させるための条件も伝えておく。

例えば、安全と正確性を重視する製造現場なら、

「個人の判断だけで作業方法を変更することはできません」
「安全と品質のため、決められた手順と報告を重視します」

と具体的に説明する。

それを窮屈だと感じて応募を取りやめる人がいてもよい。

採用の目的は、できるだけ多くの人に入社してもらうことではない。候補者にも、その職場が自分に合うのか判断する材料を渡すことである。

可能であれば職場見学や、実際の業務に近い課題を取り入れるのもよいだろう。

面接では「協調性」ではなく行動を見る


「協調性がありますか」と聞けば、
「ないです」と答える候補者は少ないだろう。
そもそも、何を協調的と考えるかは職場によって異なる。

そこで、抽象的な人物評価より、実際に起こり得る場面について尋ねた方がよい。

例えば、
「自分ではよい方法だと思って進めた仕事について、上司から大幅な修正を求められたらどうしますか」
「複数の上司から異なる指示を受けたら、まず何をしますか」
「自分のミスを指摘されたものの、一部には納得できない場合、どう対応しますか」
などである。

過去の経験について、
「上司や同僚と意見が合わなかった経験と、そのときの対応を教えてください」
と尋ねてもよい。

模範解答を探すためではない。
指示、修正、対立、曖昧さ、予定変更などに対して、その人がどのように考え、行動するのかを見る。

ただし、一度の面接で人物を決めつけてはいけない。
面接はあくまで、職場との適合可能性を考える材料の一つである。

入社したら「暗黙のルール」を言葉にする


入社後のミスマッチには、本人の問題だけでなく、企業側の「説明していない期待」が関係していることがある。

例えば、

  • どこまで自分で判断してよいのか
  • いつ上司へ相談するのか
  • 予定変更を誰に伝えるのか
  • ミスが起きたら何を最初に報告するのか
  • 仕事が遅れそうなとき、いつ報告するのか

といったことだ。

既存の従業員には当然でも、新入社員には分からない。
それを十分に説明しないまま、
「常識がない」
「気が利かない」
「協調性がない」
と評価するのはフェアではない。

「チームワークを大切に」ではなく、
「予定変更があれば、その日のうちに関係者へ共有する」
「判断に迷った場合は、作業を進める前に直属の上司へ確認する」
というように、期待する行動を具体化する。

A4一枚でもよいので、
「この職場で働くための取扱説明書」を作っておくのもよいだろう。

試用期間は「相互確認」に使う


試用期間は、会社が新入社員を一方的に査定する期間ではない。
本人と会社の双方が、「ここで仕事を続けられそうか」を確認する期間である。

問題が起きてから面談するのではなく、
例えば入社1週間後、1か月後、2か月後、試用期間終了前などに短時間でも確認する。

本人には、

  • 想像していた仕事と違うところはあるか
  • 仕事をしにくい場面は何か
  • 指示や役割で分かりにくいことはあるか
  • 会社に調整してほしいことはあるか
  • 自分で改善できることは何か

などを尋ねる。


企業側も、

  • 指示を理解して行動できているか
  • 必要な報告・相談ができているか
  • 注意を受けた後に行動を修正できているか
  • 同じ問題を繰り返していないか
  • 時間の経過とともに改善しているか

を確認する。

重要なのは、現時点で「できる・できない」だけではない。
フィードバックを受けながら、改善する方向へ進んでいるかを見ることである。

違和感を行動事実に変え、調整と限界を確認する


新入社員への問題意識は、
「何となく変だ」
「協調性がない」
「扱いにくい」
といった違和感から始まることがある。

その感覚を無視する必要はない。

ただし、本人に伝えるときには具体的な行動事実へ変える。

「報告ができない」ではなく、
「業務が二日遅れる見込みだったが、期限当日まで上司への報告がなかった」

「指導を受け入れない」ではなく、
「同じ作業手順について三回注意を受けたが、その後も確認せず従来の方法で作業した」

と具体的に整理する。
そうすれば、本人にも改善すべき行動を具体的に伝えられる。

そのうえで、

  • 指示を文書でも渡す
  • 指導担当者を固定する
  • 優先順位を明確にする
  • 報告方法を決める
  • 業務量や役割を調整する

など、小さな調整を試してみる。

ただし、調整は無期限に続けない。
「二週間試して再評価する」など、期間と確認項目を決める。

改善すれば、本人の資質そのものではなく、指示方法や業務設計とのミスマッチだった可能性がある。

一方で、
役割や指示を明確にしても同じ問題が続く、
注意を受けても行動が変わらない、
周囲への攻撃的な言動が繰り返される
そんな場合は、
職場との適合性を改めて考える必要がある。


会社が配慮すれば、すべての人が適応できるわけではない。
本人にも、仕事を覚えること、ルールを守ること、注意を受けて行動を修正することが求められる。

双方が歩み寄っても仕事が十分に成立しない、そんなこともあるだろう。
その場合には、配置や役割の変更を検討し、
状況によっては雇用継続が双方にとって適切なのか、
そんな究極的な手段をを考える必要もあるだろう。

もちろん、試用期間だから自由に雇用を終了できるわけではない。
雇用上の判断は、
事実関係、就業規則、雇用契約などを確認し、
必要に応じて人事労務・法律の専門家と検討する必要がある。

一番重要なのは、
早めに見切りをつけて辞めてもらうことでもないし、
逆に何としてでも雇用を続けることでもない。

できるだけ早く問題を具体化し、
調整できることを試し、
できる対応の限界を見極めることである。

目指すべきは「問題社員を見抜く会社」ではない


採用前に、人を完全に見抜くことはできない。

目指すべきなのは、

  • 職場の現実を事前に伝える
  • 候補者にも相性を考えてもらう
  • 入社後の期待を具体化する
  • 違和感を早期に行動事実へ変える
  • 本人と職場の双方が調整できることを試す
  • 難しい場合には、深刻になる前に判断する

ことができる会社である。


「困った新入社員」が現れたとき、
すべてを本人の資質のせいにしては同じような事態の再発は防げない。

反対に、すべてを職場環境の問題として、
周囲に際限なく我慢を求めることも適切ではない。

必要なのは、誰が悪いかを決めることではない。

本人と職場との間で何が起きているのかを早期に整理し、どこまで歩み寄れるのかを確かめることだ。


歩み寄れるなら、歩み寄る。
それでも難しいなら、双方が深く傷つけ合う前に別の道を検討する。

職場とのミスマッチを早期に見極めることは、人を排除することではない。本人にも企業にも、無用な消耗を長引かせないため。
お互いの不幸を最小限にするため。

つらいけどそんなことに向き合うことも、
産業医の仕事のうち。

そんなことを思う。

困った新入社員にどう対応する?違和感を早期に見極める方法【前編】問題社員は採用時から決まっているのか

職場とのすれ違いが生まれる理由


問題のある行動によって職場が疲弊することは、現実にある。
しかし、その問題を「採用してはいけない人物を見抜けなかった」とだけ考えると、重要な点を見落とす。

採用面接では感じがよく、経歴にも大きな問題がなかった。
それにもかかわらず、入社後しばらくすると、
上司の指示に反発する、
同僚とのトラブルを繰り返す、
周囲への配慮を欠いた発言をするなど、
職場を困らせる行動が目立ち始めることがある。

こうした状況では、経営者や人事担当者から、次のような声が上がる。

「なぜ、こんな人を採用してしまったのか」
「面接の段階で見抜けなかったのか」
「前の職場でも問題を起こしていたのではないか」

その気持ちは理解できる。
実際、一人の従業員の問題行動によって、管理職や人事担当者が対応に追われ、周囲の従業員が疲弊し、職場全体の雰囲気が悪化することもある。
場合によっては、休職や退職、ハラスメント相談、労務紛争などへに発展してしまう。

「問題社員に入社されると困る」という認識そのものは、決して間違いではない。

しかし、そこで問題を「採用時に見抜けなかったこと」だけに帰着させると、企業が本当に見直すべきものが見えなくなることがある。

なお、本稿では、本人の人格や人間性を否定する意味ではなく、職場において業務上・対人上の問題が繰り返され、組織運営に継続的な支障が生じている状態にある従業員を、便宜上「問題社員」と表現する。

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休職・復職の落とし穴 「医学」と「就業規則」がズレるとき

私傷病休職の「通算規定」に思わぬ落とし穴――東京地裁判決から考える休職・復職制度

2026年8月6日の労働新聞に、
私傷病休職の通算規定をめぐる東京地裁判決が紹介されていた。

記事によると、会社の就業規則には、休職期間の途中で復職した従業員が、同一または類似の私傷病によって再び休職した場合、前後の休職期間を通算する規定がありました。
ところが、この事案では労働者は休職期間の「途中」ではなく、「満了後」に復職していました。そして、復職からわずか1週間で再び欠勤に入っています。
会社としては、同一・類似の傷病による一連の休職として扱い、前後の休職期間を通算しました。

しかし東京地裁は、
就業規則に定められているのはあくまで「休職期間の途中で復職した場合」であり、休職期間満了後に復職した今回のケースには適用できない
と判断しました。

会社側は規定の趣旨を踏まえた類推適用も主張しましたが、これも認められませんでした。
その結果、休職期間満了による自然退職は無効とされ、
会社には1000万円を超えるバックペイなどの支払いが命じられています。

「私傷病休職 中断規定適用を認めず 満了後は対象外に 東京地裁」
https://www.rodo.co.jp/news/223787/

私傷病休職 中断規定適用を認めず 満了後は対象外に 東京地裁|労働新聞 ニュース|労働新聞社自然退職無効で地位確認ペットフードの輸入販売などを営む東京都内の会社で働く労働者が、私傷病休職満了による自然退職を不服としwww.rodo.co.jp

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正解のない社員対応【後編】 会社の支援はどこまで?責任と限界の決め方

支援はどこまで続けるべきか― 会社の責任と限界をどう決めるか


前編では、対応の難しい社員について考えるとき、
会社はまず、
・何を最低限として求めるのか
・どこまで成長を期待するのか
・どのような支援を行うのか
・本人に何を求めるのか
を明確にする必要があると述べた。

では、その支援はどこまで続けるべきなのか。

面談を増やす。
指導方法を変える。
手順書を作る。
配置を変える。
時間をかけて成長を待つ。

会社が「できること」は、工夫すれば増やせる。
しかし、
できることと、やるべきことは同じではない。

ここで必要になるのが、支援の「限界」を考えることである。

支援を続けることにもリスクがある


職場のメンタルヘルスでは、支援しないことのリスクは意識されやすい。

必要な配慮をしなければ、体調が悪化するかもしれない。
安全に働けなくなるかもしれない。

一方で、支援を続けることにもリスクがある。
上司や人事が疲弊する
同僚に業務のしわ寄せが生じる
他の社員に不公平感が生じる
本人の改善課題が曖昧になる
職場全体が一人の社員への対応に引っ張られる

ここで強調しておきたいのは、
「配慮すること」と「問題行動を容認すること」は別である
という点。

病気や障害への配慮は必要。
それは間違いない。
しかし、
暴言、威圧、無断欠勤、指示拒否などまで無条件に受け入れるのは違う。
全く違う。

本人への支援と、周囲が安全かつ健全に働けること。
会社は、その両方を見る必要がある。

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正解のない社員対応【前編】 会社はどこまで求め、どこまで支援する?

社員にどこまで求め、どこまで支援するのか― 正解のない社員対応の考え方


先日、楠木建教授のAI時代の意思決定についての記事を読んだ。
そこで論じられていたのは、戦略的な意思決定には「外部的な正解」が存在しない、ということだった。

AIは情報を集め、選択肢を整理し、それぞれのメリットやリスクを示すことができる。
しかし、「どれを選ぶべきか」まで自動的に決まるわけではない。

何を大切にするのか。
どのリスクを引き受けるのか。
何を諦めるのか。

それを決めるのは、経営者である。


職場のメンタル問題にも、よく似た構造がある。

精神科産業医も、経営者の代わりに「この社員をどうするべきか」を決める存在ではない。
医学的な状態や就業上のリスクを整理し、必要な配慮や改善可能性を検討し、会社だけでは解決できない部分を区別する。
そうした判断材料を整理することはできる。

しかし、
・社員にどこまでを最低限として求めるのか。
・どこまで成長を期待するのか。
・どこまで会社が支援するのか。
・どこから先を会社だけでは抱え込まないのか。
その基準を決めるのは、会社である。


AIが経営判断を支援しても、経営そのものを代行できないのと同じように、精神科産業医も経営判断そのものを代行することはできない。
だから必要なのは、「正しい社員対応」を探し続けることではない。

<自社として、何を求め、どこまで支援するのかを決めること>である。

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