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「動機づけ面接」について学び直してみる。

最近、動機付け面接についてまた勉強し直してみている。

僕が最初に動機づけ面接について学んだのは、日本に動機付け面接が入ってきた最初の頃、2007年ぐらいの時。
その頃にミラーの本を読んで、
<あ、これはソリューションフォーカストアプローチで俺はいいわ>
と思ってその段階で止まっていた。
でもなんだか最近ちょっと周りで動機づけ面接が良い、という人がいて、
気になって少し調べなおしてみた。

動機づけ面接は進化している

で、分かったこと。
実は僕が学んだ頃は動機づけ面接の第1弾で、
今は第3段まで進化してきているらしい。
進化するというのはまだ未完成ということだし。いいんだか悪いんだかということではあるけれど、
まあ、前とはまた違っているのなら、そんなに良いという人がいるのなら、ということでまた本を買って読んでみました。

動機付け面接の世界は、最近また日本人による解説書、教科書というのが、一通り出てきたようで、
日本の中でも盛り上がりつつあるというところの証拠なのかもしれない。

動機づけ面接の協会のようなのもいくつかあるみたい。
協会ができてくるとトレーナーだとかコーチだとか、そういった資格制度みたいなものも出てきて、
資格制度とか出てくると本家とか家元とかそういうふうに格式ばってくる。
一定の資質が保証されるという点ではいいような気もするけど、
形式のみで実際の中身が失われてくるような気もする。
いいような。悪いような

資格ビジネスだったり囲い込みビジネスだったりはみんなそんな流れなのか。
精神科の専門医制度もそんな感じで、だんだんとサブスペシャリティが揃ってきた印象。
内科や外科に遅れること10年くらいでしょうか。
閑話休題

「動機づけ面接」概観

さて、ソリューションフォーカストアプローチに染まった僕の頭で、
動機付け面接についてもう一度見直してみる。

大きな外枠の段階から行くと、
患者さんの抵抗をどう乗り越えるか、排除するか、クリアするか。
それがアプローチの大きな特色というかスタート地点であったりするのが両者の共通項。

そのために、動機づけ面接では、
まず、患者さんの言葉を否定しない。
今の生活の中、今の気持ちの中で自分の問題行動をやめたい気持ちと、辞めたくない気持ち維持したい気持ちその両方がある
そんな矛盾する気持ちを受容し、否定しない。
で、今の生活の中にある、病的体験や苦痛を伴わない、例外的出来事を探していく。

動機付け面接ではその両価性をセラピストが認めること、これがまず一番大事だと言っている。
そして変えたい気持ちを増やし、変えたくない気持ちを減らしていく
プロブレムトーク、維持トークから、チェンジトークに移っていくこと、それが面接の目的である。

特徴的だと感じたこと

私が今回勉強してみて、
改めて動機付け面接の特徴だと思ったのは、

まず、患者さんのセリフに対して、
プロブレムトークや維持トークについてリフレインしてリフレクションすることで、相手がそれとは逆のことを言いたくなる気持ちを誘導して、チェンジトークにつなげていく。
そしてチェンジトークをリフレインして言葉を強化していく、
という技法。

そして医療者の「正したい反射」を押さえることが重要であり、
解決や正解を直接提示しないことが患者さんや治療の進みにプラスとなる、と考えること。

「正したい反射の禁止」は精神分析において、解釈直接伝えることを禁止するような感じでしょうか。

動機づけ面接のOARS

動機づけ面接の4つのカウンセリングスキル
開かれた質問(Open questions)
是認(Affirming)
聞き返し(Reflection)
サマライズ(Summarizing)
の4つを、その頭文字からOARSと呼ぶ。

ぱっと見は臨床実習でやったOSCEのポイントと重なってみえてしまうが、
そちらはあくまで問診。
動機づけ面接ではこのOARSを治療動機を高めるため、
チェンジトークを引き出していくために使う。

動機づけ面接とソリューションフォーカストアプローチの違い

ソリューションフォーカストアプローチと動機づけ面接の
違いはもちろんたくさんある。

まず、
動機づけ面接では、
良いとされるゴールがあるのに対して、

ソリューションフォーカスアプローチはゴールをクライアントが決める。
ゴールである解決を探すことが、解決に近づくための第一歩であり、
治療のとても重要な部分である、
というところ。

だから、
アルコールの害を減らすだとか、糖尿病のコントロール、禁煙、治療遵守とか、
動機付け面接ではアプローチできるものがわかりやすい。

ということは、これはこの正解に近づくための技法なんだ、ということが説明しやすい
これは正解探し症候群である医療者にはやっぱり分かりやすい。

そして、
動機づけ面接は問題について語らせることに重心があり、
ソリューションフォーカストアプローチは問題についてではなく例外について語らせることに重心がある、というところ。
これは技法の違いであり、目指すところの違いでもあって、
だから対応できるところの幅や次元が違ってくる。

動機づけ面接とソリューションフォーカストアプローチの共通するところ、でもやっぱり根本的に違うところ

大きな共通項としては、患者さんは変わる変化できる。変化する力を持っている。そういう風に信じること。これが治療のアルファであるということ。
これ自体は共通するところだと思う

そして動機づけ面接はその変化するという可能性について、
医療者が感じられる、信じられるようになる体験へのアプローチなんだと思う

ソリューションフォーカストアプローチは、
変化の可能性を信じることから始まって、
最終的な解決もクライアントが形作るもので、治療者は伴走する存在であるということ、
それがどう動機づけ面接との根本的な違い。

違いという意味では、
アプリケーションなのか OS なのかという違いというか、
動機づけ面接は治療技法であり、
ソリューションフォーカストアプローチは患者さんを理解するためのシステムなのだと感じる。

まとめていうと、
動機づけ面接は、医療者が教条的アプローチから離れて患者さんの変化の力を引き出すためには、分かり良いアプローチであるかもしれない。
治療技法にはとどまるが、だからこそ、取り入れやすく、
今まで壁を感じていたことにアプローチできる実感が得られやすいのかな、と感じる。

しかし、そこでもたらされるゴールは、医療者の描いた景色から大きく逸脱はしないだろうと感じる。
そして、医療的問題ではない課題に対しては無力なのではないかと。

私がソリューションフォーカストアプローチに巡り合ったのは、
医療では対応できない課題や要請に応えられるものを探し求めたから。
そして治療者の限界がクライアントが改善する事の限界ではない、と感じられるのは、私の精神科医としての最大のコーピングスキルになっている。

お勧めの本

今回あれこれと動機づけ面接の本に当たってみた中で、
一番良いと感じたのはこちら
「福祉現場で役立つ動機づけ面接入門」 – 2019/6/7
須藤昌寛 (著)
https://amzn.asia/d/2RGVG6X

この項ここまで

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あらためて「安全配慮義務ってなんだ?」と考えたときに。お勧めの本:「安全配慮義務の実務と対応」

産業医はなんのために必要なのか?
「予防医療のため?」 どうも私にはピンときません。
「健康経営のため?」 これも政策というか、行政に誘導されている感じがして、しっくりきません。
「法律で義務付けられているから」 まあそうなんだけれど、もう少し具体的にならないと、医者である産業医が必要な理由がわからない。


「企業が安全配慮義務を果たすことに、医学的知識を知識を生かして協力するため!」
ということになりましょう。

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メンタルヘルス顧問:休職を拒否する「うつ」スタッフへの対応

メンタルヘルス顧問的な対応した時のことを書いてみます。
産業保健職から、メンタルヘルス不調の社員への対応方針について相談されました。

事例:

少し前から「うつ病」と診断され、短期間の有給休暇をとり、抗うつ剤の内服治療で「回復した」と通常勤務に戻った。

心配する上司と産業保健職とでは、<”食欲低下””睡眠障害””希死念慮”といった明確なうつ症状が出たら休職にしましょう>と相談していた。

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医療者がバーンナウトしないために必要だと思うこと

医療者はBPD者に操作されやすい。
それは医療者には感謝を求めてしまうような危うい心性があるからだ。とBPDの項で書きました。

人を助けたい、困っている人を放っておけない、
そんな惻隠の情が強い人が医療者には多く、
それが逆に人に感謝されたい、という危うい心性につながってしまいやすくなります。

そしてその心性によって、時に医療者自身も振り回され、傷ついてしまうことがあります。
それが限界を超えたとき、バーンアウトが起こります。

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健康経営エキスパートアドバイザー試験 やり直し

半年前に受けたものの一次試験の点数が足りず涙をのんだ、
健康経営エキスパートアドバイザー認定試験です。

敢えて敗因を語ると、どうやって勉強したらいいのかよくわからないテストでした。
この喉に刺さった魚の骨を取り除かずにはいられようか。リベンジあるのみ。
次の機会を待っていたわけです

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