先日、保護児Aちゃんのの対応に悩む、里親Bさんの相談を受けた。
Bさんは両手はカラフルなマニキュアを塗り、印象的な髪色をしていた。
女性らしい美しさを求める気持ちが強い方なのだと思った。
Aちゃんは肌触りのよさそうなゆったりした服を着ていた。
服はその今日着ている服と、もう一組の服ばかりを交互に着たがるのだという。
Bさんが悩んでいるのは、
Aちゃんが質問されたことに対して、ずれたことを返してくることだという。
先日、スゴイ雪が降ったじゃないですか、
だから私言ったんです。
「こんなに雪が降ったのって初めてでしょう?」って。
そしたらAは「去年の2月10日も雪が降った」って言うんです。
おかしくないですか?どうしたらいいんですか?
うーーーん。
おかしくはない。
ずれてはいて、すれ違ってはいるけれど、間違ってはいない。
Aちゃんがしているのは、
事実ベースの話。
Bさんが求めているのは、
感情ベースの会話。
AちゃんとBさんのすれ違いについて私が思ったのは、
男女の会話のすれ違いみたいだな、ということ。
彼女の愚痴に対して、彼氏は解決方法をアドバイスして、
彼女を怒らせてしまう話。
彼女は共感を求めて話しているのに、
彼氏は事実や行動の話をしてしまう。
じゃあ、私はAちゃんの反応に対してどう感じたか。
「そうきたか(笑」と思いました。
「そうきたか」とは、マネージャーが失敗した時に、歌手のさだまさしがきまって発する言葉らしい。
まずこの言葉で事態を受け止める。
そして面白がる姿勢が表れていると思う。
これを聞いてからちょっとマイブーム。
「そうきたか」
まあ精神科医なので、こっちの想定とずれる相手の反応は元から大好物なのだけれど。
Bさんに対してその時に返したのは、
Aちゃんの事実ベースへのこだわりについての解説。
Aちゃんは物事を事実から抑えるのが好き。
だから、まず事実を出してきたことに共感して、「そうだったねー」と。
その上で、今回の雪と去年の雪とを比較して、その程度を驚く、という練習をしてあげる。
という解説をしました。
そうしたらBさんからは、
Aちゃんは普段読む本も図鑑とかばかりで、勧めても少女マンガだとか物語は読みたがらない、と。
そこもBさんは残念に思っているらしい。
これは心中で思ったのは、
BさんはAちゃんに女性同士の共感に基づく会話をしたりしたいのだろうな、
AちゃんとBさんは相性があまりよくないのかもしれないなー。
ということ。
で、職場の友人にこの話をしてみたら
Aちゃんを「かわいいじゃない!」って。
まあ同僚なので、そうなりますわね。
そういうのが好きになるのが精神医療業界です。
里親さんは職業人ではないので、
Aちゃんの特性を先回りして理解できることは必要ないけれど、
自分も傷つかず、その子に上手に対応できるためには、
「そうきましたか」とか「かわいい」といった受け止め方ができることは、
必要な事だな、と感じました。
翻って職場のメンタルヘルスの場面だとしたら、どうだろうか。
上司が部下の思いもよらない反応に「そうきたか」と受け止められること、
面白がるような余裕を持つこと。
それがその職場の心理的安全性を担保するためには有効なのではないか。
そして、自分自身のメンタルタフネスを高めるためにも。
「そうきたか」とつぶやくこと、
想定外の事態を面白がろうと努めること、
まずはフリからであっても、それが想定外の事、期待外れのことに対して受け止められるようになるための訓練となるはず。
咄嗟の事態に「そうきたか」と受け止められることは、
まさに職場のメンタルヘルス対応に必要なスキルではないか、
と思った事でした。