しばらく前から契約させていただいている企業がありまして。
そこのスタッフのお一人からのメールで、
「自分の主治医になってほしい」という依頼をいただきました。
普段の訪問時に直接やりとりをする関係ではないものの、業務上で接したこともある方です。
社内でも中心人物のお一人であり、しっかりとした方だとお見受けしていました。
「業務上で負担に感じることがあり、悶々としている」
「会社に行くのが憂うつであり、その負担に感じる事柄、その業務に関係する人物との接触が苦痛であり、動悸がする」
「睡眠も今一つだし、胃腸の調子が悪い感じで食欲も落ちてきた」
「信頼のできる医師に診察してもらいたいので、ぜひ(私)に主治医になってほしい」と。
はて、困りました。
「産業医はその契約先の従業員の主治医を兼ねるべきではない」ということは産業医業務に当たっての基本です。
特に精神科産業医では鉄則と言っていいでしょう。
それは、
「主治医は担当する患者の利益を第一に考えて治療に当たらなければならない」のに対し、
「産業医は嘱託先企業に対して中立的な立場で労働衛生に関して意見しなくてはならない」からです。
従業員の希望と会社の判断は対立することがあります。
休職者の復職に関する判断において、
主治医は復職OKと言うけれど、会社としてはOKとは言い難い、
という場面を想定すれば、理解がしやすいでしょう。
メンタルヘルス問題については特にそれが起こりやすいのも当然のことです。
目に見える判断基準がないのがこの分野ですから。
似たようなことで、
精神科医はご家族の中で患者さんが複数いた場合に、同時に主治医とはならない、ということも原則だったりします。
慢性期の安定状態の場合にはこれは例外とされたりもしますが、やはり原則は大事です。
医師は自分の家族の診療はしない方が良い、というのもこの仲間かな。
閑話休題。
さて、本件では
<私を信頼してそのように仰っていただいたことは大変光栄です>
<しかし、産業医は顧問先の主治医を兼ねないのが基本です>
<産業医は担当する患者さんの味方をしなくてはなりません>
<そしてそれは時に会社の利益と対立することがあるからです>
<即入院が必要なような緊急事態をのぞいて、私も原則に従います>
<精神科医はだれでもいい、とは言えないので、ご希望であれば私の信頼できる医師を紹介します>
とお答えしました。
すると
「では以前に受診したことのある○○クリニックにまた行ってみます」と返信があり、
そこの医師は私の信頼できる医師でもあったので、
それをお伝えしてひとまず一件落着、としました。
巷間の内科診療所の医師などは「集患につながるから」などと近隣の事業所の嘱託産業医を引き受けたりするようですし、
開業コンサルがそのように勧めたりもするようです。
まあ弁護士事務所とかと同じ発想でしょうか
しかし、例え自分がメンタル問題を診療しないとはいえ、
自分が診療する患者が産業医先の従業員として検討すべき状況となったとき、
その希望と安全配慮義務が利益相反する状況になったときに産業医としての役割が十分に果たせるのか?
まあそこまで考えてはいないんでしょうね。
そんな時にはぜひ私にスポットコンサルトをご用命ください!
なんてね。
良くある原則通りの状況にぶつかって考えてみた話でした。