その1、では読んでみただけで終わってしまいました。
その2、では今年の精神神経学会のAIについてのシンポジウムも踏まえて、精神科医として現状を見たときに何を思うかについて書いてみます。
医師の業界で生成AIを使って現時点で何ができるのか。
というと、この2冊に書かれているような、
翻訳機能を生かした医師の学習、研究、報告がメインになっている。
これはいつか来た道ですねー
30年ほど前の初期のPCの利用はこのような目的が始まりだったように思います。
「医師のPCと言えばMacでしょ!」の時代。
あ、私は「大人の翼ThinkPad」にやられた世代です。
電カルってまだ最近の道具
電子カルテが記録の道具になり、医師の日常診療に入ってきてまだ10年ちょっと。
常に事態は移行期であり、PCや生成AIといった道具の進歩により、医療というものがどう変化してくるのかは、悩ましい。
課題はとにかく個人情報、セキュリティ
Chat-GPTを始めとする生成AIはほぼすべてがクラウドモデルである。
個人情報の塊である電子カルテのシステムと連携させるためには、有形無形のハードルが高い、というのはだれにでもわかる話で。
現状はやはりそれを回避してどう利用するか、というところと、
電子カルテ記事で生まれたデータを如何に安全に生成AIによって加工できるようにするか、というところの仕組み待ちということだろうか。
生成AIの小型化
スタンドアロンのサーバーの様な、閉鎖的システムの中で動くようなローカルモデルの生成AIが実現するようになれば良いのかもしれないが、
生成AIの要求するマシンパワーであったりエネルギーコストの問題から想像するに、その方向の未来は来るだろうか?
大塚教授は、「今後電子カルテには生成AIが搭載されて病歴サマリーなどの作成はある程度されるようになっていくだろう」と。
クラウドカルテの売りにはなってくるのかも。
個人情報に触れない医療領域での活用
件の松井氏が主導する精神神経学会2024のAIを話題とするセッションでは、
ガイドラインを解説してくれるボットや
学生教育用の模擬患者ボットの可能性について触れていました。
うん、たしかにそういう活用可能性はありそう。
PCの画像認識や音声認識の能力が高まっていくことで、より具体化してくるのかなー
精神科特有の問題もある
「生成AIで診断や経過が予測できるようになる!」とか、色々スバラシイ未来を語ってくれる方もいらっしゃる。
バイタルデータや検査値のデータを利用できる身体科治療の世界ではその可能性を感じるが、
精神医療の世界は、非特異的な症状ばかりで、それをどのように解釈するか、というところは評価者(面接している人)の「視力」次第である。
現状ではGarbage In, Garbage Outであり、精神科で使い物になるとはちょっと感じられない。
Garbage in, garbage out – Wikipediaja.wikipedia.org
たとえば向精神薬の投与量と効果の把握
薬剤の使用量は定量化して把握しやすいデータであり、
電子カルテデータから薬物の使用量の経過表を作らせる、というようなことは現状でも可能である。
しかし使用量の推移が出たところで、
どのような状態像、症状に対してその薬剤を投与し、
どのような効果があったのか、
という人間の評価の段階が現状の精神科医療では足を引っ張る。
でもこれも、私が精神科医療の専門家だからこんなことが必要だと思うのかもしれない。
もうちょっと、「なんとなく効いたかも!」とか
「よくわかんないけど退院できた!」とか、
そんな漠然としたことがアウトカムとして見られていくのかとも思う。
精神医療の見立ての技術がロストテクノロジーになる?
かつて、「操作的診断基準をよく読めば、裁判官の私だって診断はできる!」と宣わったエライ裁判官が居たそうだが、
「ちゃんと見る=観る=診るのはそんなに簡単じゃない」と思うのは精神科医だけで、
高度で専門的な技術があったとして、それが必要とされなければ、
精神医療の見立ての技術も、
戦艦の製造のように、ロストテクノロジーになってしまうのかもしれない。
「裁判官でも診断できる DSM-IVなどの操作的診断」https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1120100959.pdf
メンタルクリニックの乱立に見る精神科医療のコモディティ化の行く末は、
精度の高い職人技から、
ハズレもしないけどしっかり当たりもしないそれなりのモノになるような気がしていて、
100均で売られている刃物と、
職人技で作られる燕三条の包丁のような二極化に行きつくように思う。
それは精神科医療だけではなく、
私がSympathyを感じる産業医の領域も同じことで、
「易かろうそれなりだろう」と「安くはないけどしみじみ効く」に
二極化してくるのではなかろうか
生成 AIから始まり、精神科医療の行く末まで、あれこれと悩ましいと思った事でした。
この項ここまで。
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