おおた産業メンタルラボ

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働く場面での境界性パーソナリティー障害 BPDその9

精神医学的なBPDの話が長くなってきてしまったので、
そろそろ私のフィールド、働く場面で、会社でのBPDの話に戻ります。

「対人関係の境界を乗り越えてくるのがBPD者の操作である」というのがBPD者に気づくサイン「操作」についてのまとめでした。

働く場面での操作


同僚や上司、産業保健職に対して、
他の人より少しだけ特別いを要求するというか、
叶えられなくはないんだけれども、少しだけオーバーな要求をする。
少しだけ対人的な退治に行ってきな距離が近い、
こちらは戸惑ってしまうような、互いの親しさに見合わない、深煎りした打ち明け話をしてくる。
といった行動に操作が現れます。
すごくおかしくはないんだけれども、対人的な距離人との壁を踏み越えて、心理的に乗り込んでくる。
そんな行動に操作は現れます。
 

働く場面でBPD者の操作のターゲットとなりやすい人


働く場面で操作のターゲットになりやすい人がいます。
上司であるとか、産業保健職といった、
支援をすることが役割である人。

その中でもとくに操作しやすそうな人。
頼りやすそうな人、動いてくれそうな人、
手伝いができないことを自分を責める自責になりやすそうな人 、
そんな人がBPD者が操作する相手になります。

職場だとまず上司さんになるのでしょう。
会社の安全配慮義務を代表する存在として、
部下であるBPD者に配慮しなくてはならない、
というのはどうにもならない急所です。

まずは予防、早期発見


BPD者の相手になりやすい立場に置かれている人が、
まず、BPDの関係にならないようにふるまうこと。
それがBPD者への予防の基本です。

そして「対人関係の境界を乗り越えてくる言動=操作」に気がついたら、まず警戒して、振り回されすぎないようにすること。
そして、警戒のしすぎではなく、対人関係の境界を乗り越えようとし続けるようなら、それが操作だと確認したなら、
すぐにボーダーラインシフトです。
周囲の支援者仲間、上司仲間や保健師などと連携し、独りでは対応しようとせず、
どこに警戒しているのか、すなわち操作的言動のポイントを共有します。
そして操作的言動のエスカレートを防ぎます。

もう嵐が始まっていたら?


気づいた時にはすでに、BPDの関係性が始まっていたら。
BPD者のしがみつき、賞賛とこき下ろしのUp-Downの嵐が始まっていたら。
そこからどうしましょう。
これもやはり、この混乱はBPD関係、BPD状態による混乱だと気づくことからです。

巻き込まれが始まってしまった時には、独りで気づくことは難しいでしょう。
産業臨床では、上司が、または保健師が、
BPD関係に巻き込まれて、大混乱になって初めて表面化することも少なくない。

貴方が第三者としてその混乱に接したら、
まずはBPD者に振り回されている相手を逃がすことです。
逃がす=距離をとること、取らせること。
そこからボーダーラインシフトを始めます。

加えて、BPD者が傷ついていたり、ひどい混乱状況にあるならば、これを理由にしてBPD者の行動にSTOPをかけることです。

それが起きているのが職場であったらば、
職務専念義務であったり、業務の支障になる行動を戒めるような就業規則がブレーキ役になってくれると思います。
BPD者から見てさらに命令系統の上位にある人を頼り、強制的にSTOPをかけてもらうことが必要になるでしょう。
文書によるけん責処分や出勤停止命令などまでいかなくとも、
そうなる可能性を示せば、十分かもしれません。

職場でのボーダーラインシフトとは事例性

就業規則によってブレーキをかけることが示すように、
職場でのボーダーラインシフトとは、すなわち事例性の課題として扱うことです。
疾病性の問題、すなわち病気によって助けを求めている人扱いを止める。
それが職場での適切なボーダーラインシフトにつながります。

主治医が居たら


BPD者は精神科医療を利用していることも多いでしょうから、
本人に許可を得た上で、主治医に連絡をとり、職場での状況を伝えましょう。
主治医は本人からしか情報を得られていないので、抗うつ治療のみであったりと不適切な治療となってしまっていることも少なくないかと思います。

でも、BPD状態、BPD関係は現場の周囲の対応で収まるのであって、
主治医の薬物療法で改善することはあまり期待しないでおきましょう。

私が主治医だとしても、
職場で適切にボーダーラインシフトが取られていない場合に、病院の治療場面で本人と治療的な面接ができるとは思えません。

適切な距離が取られ、BPD者が「これはまずい状況なのではないか」と思えて初めて、その行動パターンや人間関係の取り方が治療の俎上に上がります。

ボーダーラインシフトを取れたなら


この先はちょっとケース分けが難しい。
もしこのボーダーラインシフトを指示できる産業医がいたなら、その産業医と一緒に対応しましょう。

そうでない場合には、事例性の要素が強い問題として、
上司や産業保健職が人事労務と連携しながらボーダーラインシフトを続けていく。

おそらく、本当にこじれたBPD者は、そのような状況では会社にはい続けられません。破綻していきます。

そこまででなければ、
BPD者も”生暖かい”対応をされる中で、
かつ、何かの良いチャンスを得て、
それなりに落ち着いた振る舞い方を身に着けていくこともあるかもしれません。

どうにも収拾がつかない、そんなときには、メンタルヘルスに強い産業医をお探しください。
ワタクシの守備範囲でしたらどうぞご連絡くださいませ。

さて、ボーダーについて、長々とシリーズ化してしまいました。
なんでこんなになったのか、と振り返れば、
BPDこそは職場という現場で起きるものだから、
よそでどんなに良い薬を盛られても、現場での対応が適切にならなければ改善しようがない。
現場で悪くなり、こじれるものだから。
薬に拠らない精神医療、チームで対処しなくてはいけない状態の最たるものだから、なのでしょう。

これでひとまずBPDについては一区切りに致します。