おおた産業メンタルラボ

ブログ・お知らせ

クライシス・プランのすすめ 統合失調症で休職した社員を復職させるには、その4

これまで統合失調症を持つ従業員の架空事例をもとに、復職に向けて確認すべきこととして、

1、<休職に入る前の行動についてどう振り返れているか>
2、<休職を繰り返さないためにどう行動するのか>

の二つのポイントについて挙げてきました。


統合失調症の再発は、服薬し忘れが約8割で、
それと並行して生活リズムが乱れてしまったり、
睡眠時間を十分に取らなかったり、
酒を飲んでみたり、
やはり自分の状態に油断をして、無茶をしてしまうことが再発のきっかけになります。

再発防止策としては、
「服薬も含めて生活リズムを整えること」になるわけですが
この再発防止に対する対応策は、
精神医療の標準的な方向性は実はもう決まっていて
それは「クライシス・プラン」の作成です。

クライシス・プランとは

クライシス・プランとは、精神的な危機に備えて、本人・家族・支援者が事前に対応方法を決めておく計画です。
症状の兆候、連絡先、してほしい・ほしくない対応などを記し、危機時の混乱を防ぎ、本人の意思を尊重した支援を可能にします。

これが精神医療の標準的な取り組みの方向であるというのは、
統合失調症の再発防止に国の施策として取り組んでいる、
医療観察法で実施されている方法だからです。

クライシス・プランは誰が作るのか


クライシスプランとは
支援者とともに、患者さん本人が、
まあ、自分の再発の要注意サインを客観視し、
それに対する再発防止策を考えてプランを作っていく、
というものです。

自分の行動と病状悪化の経緯を客観視して、そういったまとめをするという共同作業を行うことにすごく治療効果があるわけです。

支援者ってだれのこと?


統合失調症をもつ従業員本人の支援者は、
まず第一に精神科主治医です。
精神科医であれば、クライシス・プランについては熟知していて当然、
だと思いたいところです。
まずは主治医に復職にあたっての「クライシス・プラン」の作成を求めます。

世の中にはトンデモな医師や、とっても多忙が忙しくて忙しい精神科医もいなくはないので、
とても「クライシス・プラン」なんて作れない、
なんてこともなくはないかもしれないです。
でも、
就職に結びつくレベルに回復している患者さん=従業員さんであれば、
きっと主治医以外にも、通院先の精神保健福祉士PSWや、
就労支援のコーディネーターなどがついているかと思います。

そのような医師以外の支援者は、
逆に薬物療法以外の働きかけ方を知っているので、
「クライシス・プラン」を本人と一緒に作成してもらうように求めると、
喜んで取り組んでくださると思います。
私の知る限り、彼らはそんな風に本格的に求められる機会を待っています。

彼らはそんな職についているくらいなので、
働きかける能力とやる気はあるのだけれど、
主治医が言ってきてくれなくて、患者さん自身が希望してこれないと、
勝手におせっかいを焼くわけにはいかないからです。

閑話休題

助けを求められるようになること


精神の病気という数値化、視覚化のできない疾患、
その回復を確認し、再発を防止するためには、
単に服薬をさせる、だけでは足りず、
患者さん=従業員本人の行動パターンを変容させる、
そのための働きかけが大切で、
それが支援者と行う病状の振り返りや「クライシス・プラン」の作成です。

そして、支援者の力を借りること、それができるようになることは、
自分の窮地に助けを求められるようになることの実践であり、
この援助希求ができるようになることは、再発防止のために重要な行動変容です。

産業医と行うことは?


専属産業医がいるような職場、
特に精神科産業医もいるような職場であれば、
産業医と従業員本人とで振り返りと
「クライシス・プラン」を一緒に作ることもできるでしょう。
そうできたらきっと良いと思います。

私自身の経験でも、
復帰を希望する従業員本人と、
病状の振り返りと、
「クライシス・プラン」ほどには形作らなくても、再発時の対応の確認をしたことがあります。
その後の定期面接につなげるためにもとても有意義な時間でした。

振り返って病状が悪くなったらどうするの?


統合失調症が悪化しての休職から復職ができるかどうかについては、
本人と病状悪化時の様子を振り返り、自己保健義務を発揮して、自分の身を守ろうとすることができるかどうかを、
確認していくことが復職判定時のポイントであると書いてきました。

しかしまあ、なぜかその振り返りを曖昧にしたままにしようとすることが多い。
悪化していた病状について振り返り、本人の認識を確認しようとすると、
「そんな余計な刺激をしてまた病状が悪くなったらどうするんですか」
「病状を悪化させたら判然配慮義務違反になるのでは?」
時にそんなことを言う方もいます。

まあその心配は必ずしも杞憂ではない。
振り返りは刺激になるので、病状がまた少し悪化することもあるでしょう。
それは否定しません。

ただ、そこに触れないということは、自己保健義務を発揮できるかを確認しないで復職させるということ。
それは、本人の十分な改善を確認しないということであり、
むしろ安全配慮義務に違反するようなことです。


具合が悪くなったらどうする?
振り返りに刺激を受けて病状が悪化するなら復職はできないんです。

その刺激は必要な負荷です。
復職をするということは、休職している段階より負荷がかかるということです。
復職のためにかかる負荷に耐えられないなら、まだ復職できる段階にないということです。

「寝た子を起こすな」と
ここを曖昧に過ごそうとすることは、日本人の文化なのでしょうか。
いや、寝かしたままでは仕事できないんですが。
仕事は起きてするものです。

復職可能とは


復職可能とは「自己保健義務」が果たせるようになることであり、
「クライシス・プラン」を支援者と共同で作れること。

「クライシス・プラン」を作る中で、
病状の振り返りという心理的な負荷がかかり、
その負荷ではすぐには病状悪化を招かない、ということが確認できる。

そんなことを統合失調症の架空事例をもとに考えてきました。