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周産期メンタルヘルスを齧ってみた。その1

ちょっとご縁あって周産期メンタルヘルスについてかじってみた。
かつて総合病院でリエゾン精神科医をやっていたので、その時に触れて以来。

その時にはあまり意識していなかったけど、
あらためて、産業メンタルヘルスとの共通点というか、
今のメンタルヘルスのフロンティア領域として重なっている点について考えさせられたので、そんな話。

周産期メンタルヘルスの始まり


昔より周産期メンタルヘルスは注目されている。
昔というのは、20年、10年、といった単位の話。

しかし、どこから周産期メンタルヘルスについての関心が高まり始めたのか、ということについては、
あちこちみてもあまりはっきりと書かれていない。
「大切なことだから当然そうなってきた」みたいな、
あいまいな話で済まされていることが多い。

時代の流れから考えると、

1980〜1990年代に、
1985年:男女雇用機会均等法の施行により、女性の高等教育・就業率が上昇。晩婚化・晩産化が進行し、出産・育児と仕事の両立が課題に。

2000年代、
少子化が進行する中で、母子保健の充実や育児支援策が政策課題として注目され、周産期メンタルヘルスの重要性も徐々に認識され始めた。

といった流れで、
少子化対策から、周産期メンタルヘルスについての注目は始まったと考えて良いだろう。

なぜ周産期メンタルヘルスは大切なのか


そんな契機で注目されだした周産期メンタルヘルスであるが、
今回学んでみて改めて大変なことだと思ったのは、

”妊産婦の死亡原因の第1位は自殺である”
ということ。

そして特に、
東京都23区では日本全体に比べて自殺による妊産婦死亡率が3倍。
最も日本的である東京都23区で周産期メンタルヘルスが危機的状況にあるということ。

”産後うつ病”といううつ病はない。


周産期の心身の不調の中に産後のうつ状態が含まれ、
妊産婦の自殺や児の心身に悪影響を与える状態として、
特に産後うつが注目されがちだということ。

自殺の背景となる周産期うつの有病率は10-15%とけっこう多い

まあなんでも「うつ」な、過剰診断バンザイな時代だから、わからないではない。

”産後うつ病のホルモン仮説”は都市伝説
産後うつは妊娠・分娩に伴うホルモン変化とは無関係
ホルモンの変化は起きているが、
その変化とメンタル不調とは関係性がない。
つまり嘘ではないが、科学的裏付けはない。

周産期うつは症候群:妊産婦のアイデンティティクライシス


核家族化により、小さな子供、赤ん坊に触れたことがない若者たちが、
支援も経験も乏しい中で母親、父親になる。
脆弱な赤ん坊の世話という未経験の難題、
思い通りにならないこと、不確実なことばかりの理不尽な経験に直面する。

周産期の心理社会的変化への対応に困難を感じ、
それに対する反応として生じるのが周産期うつ

つまり、中核があるわけではなく、
メンタルヘルス不調の集合体が周産期うつ

周産期うつへの対応策


さまざまな集合体である周産期うつは、
そもそもの疾患の定義もないわけだから、
これが決定打!といったインスタントな解決手段はない。

結局のところ、みんなが寄り集まって、ああでもないこうでもないと考え、思いを巡らせて抱える。
そのホールドされている環境が母となった本人に安心をもたらすのではないだろうか。

深刻な危機につながる状況にだけは手を伸ばしながらも、
母親本人の成長、新たな環境への習熟を見守り、促していく
そういった緩やかな見守りを作っていくしかない。

産業メンタルヘルスと対比して思ったことは、
また次回

一般の人向けではないけれど、良いと思った本

を並べておく。

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妊産婦の生活と育児に寄りそうメンタルヘルスケア: これでいいんだ!amzn.asia

事例でまなぶ 助産師ができる周産期のメンタルヘルスケア: 病態生理、スクリーニング、服薬指導、多職種連携… この1冊で全てがわかる (ペリネイタルケア2022年夏季増刊)amzn.asia

ガイドラインとか

こころの不調や病気と妊娠・出産のガイド(一般の方むけ)

妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル

周産期メンタルヘルスコンセンサスガイドpmhguideline.com

精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド|公益社団法人 日本精神神経学会www.jspn.or.jp