前回、周産期うつへの対応策について、
さまざまな状態の集合体である周産期うつは、
そもそもの疾患の定義もないわけだから、
決定的な、インスタントな解決手段はない。
みんなでああでもないこうでもないと思いを巡らせ、
深刻な危機だけは手を貸して、
母親本人の成長を見守っていくしかない。
そう書きました。
精神科産業医から見ると
それを精神科産業医の立場から見てみると、
まあそういった、
決定打はなく、根気よく関わり続けていくなかで当事者の成長を促していく、
というアプローチが必要になるところは、
産業メンタルヘルスとほぼ同じだと思うのです。
そして、ほとんどが大事にはならないからと言って軽んじてはならないのは、
風邪のようだからと言って、肺炎や肺がんを見落とさないように意識しておく必要があるのと同じ。
支援者はその重症者への対応策も取れる存在でなくてはならない。
最前線にいる支援者は非専門家ということ
もう一つ産業メンタルヘルス領域と似ているのは、
その不調の当事者と最前線で向き合うのが、
助産師や看護師といった、
メンタルヘルスの専門家ではないということ。
産業メンタルヘルスでいけば、
現場で対応するのは上司さんや人事担当者であって、
産業保健職、まして精神科産業医などは何段も距離がある存在。
だからこそ、精神科医/精神科産業医は、
間接的アプローチと、
現場の支援者をエンパワメントすることに意識してかかわる必要がある。
そんな歯がゆさもよく似た状況。
単純に”疾患”ととらえて、
<薬のめばよくなるでしょう!>といったシンプルな解決が取れる分野はあまり悩まない。
そして大体のところは白黒ついてきた。
そして今は、このような人生の課題と病気の問題が絡み合った領域が残され、
それに対応できる支援者が求められていく。
硬軟ともに必要であるところ
<メンタルヘルス問題を持つ妊産婦のニーズ>
(「妊産婦の生活と育児に寄りそうメンタルヘルスケア: これでいいんだ!」から)
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1、丁寧に話を聴き、困難さに気付いてほしい
2、リスクがある母親として見ないでほしい
3、頑張っていること、できていることを承認してほしい
4、支援の必要性を見極めながら見守り続けてほしい
どれも全くその通り。
ただ、この中でも
2、リスクがある母親として見ないでほしい、
は際立っている。
少子化対策として始まった経緯からしても、
児童虐待、不適切養育の高リスク者として周産期メンタルヘルス不調者があることは、否定のしようがない。
力を入れる本来の目的の一つですらある。
どのようにそこを両立させていくのか、
という対応の難しさはここでは置いておくとして、
産業場面で、
「問題社員の背景としてのメンタルヘルス不調者」という構図とこれまたよく似ている。
事例性と疾病性の分離であったり、
並行的な取り扱いであったりと同じように、
切り離して考えることはできないものだと感じる。
精神科医って。。。
精神医療の学術雑誌であったり、
精神科医が書いている本は、
まず最初から精神病を持つ妊婦にどう対応するかの話になっている。
世の中一般で求められている周産期メンタルヘルスはそういうことではないだろう。
精神科領域の学術雑誌は、まあ精神科医が読む前提だからそれでよいのかもしれないけど。
タイトルに”やさしい”とかつけて、
精神科医以外にはあまり理解できないであろう本を、
ピンク色してやさしげに売るのはいかがなものかと思った。
やはりまだ熟成されていない領域だからなのか、精神科医がずれているからなのか。
これも精神科医がさも専門家でござーいと関わるのに、
実効的な働きかけができなくて、
理屈こねて煙に巻くようなことをしてしまいがちなのも、
どちらにも共通していると感じた。
とまれ、精神科産業医が周産期メンタルヘルスについて学んで感じたことでした。