「現在、職場を取り巻くメンタルヘルス対策環境についてどう考えるか?」
というお題をいただいた。
職場のメンタルヘルス対策の現場の状況について振り返ってみると、
「これは、だいぶ混乱してるなあ」とあらためて思う。
でも、なぜなのか。
なんでこんなにみんな混乱してしまうのか。
あらためて理由を整理してみたら、分かってきた。
いま、<メンタルの問題>とひとくくりにされているものには、
3つのパターンがごちゃまぜになっている。
1.精神疾患がある人への対応
まずは王道中の王道。
うつ病や不安障害など、診断のつく精神疾患があって、それでも働き続けたい、復帰したいという人を支えるケース。
働くこと自体が病状にマイナスの影響を与えないように、支援していく。
治療、という視点が中心にあり、そこに仕事の仕方が関係してくる。
2.未成熟さなどからくる職場不適応
次に、最近とても多く感じるのがこのタイプ。
はっきりとした病気とまでではいかないけれど、自分の未熟さや対人スキルの弱さなどから、職場にうまく適応できない人たち。
多くは若者。
そこも<メンタルの問題>とひとくくりにされがちではあるけれど、この人たちには、治療ではなく“育てる”視点での支援が大事になってくる。
3.能力や意欲の問題、いわゆる問題社員
そして少数ながら、ちょっと厄介なのはこのパターン。
能力や意欲の問題により、労務の提供が不十分な方。
もちろん病気ではないから、治療したとして改善するわけはなし。
厄介なのは、しばしばメンタル不調を盾にして言い訳に使うこと。
必要なのは、労務問題として捉えて対応すること。
「メンタルヘルス不調の治療と仕事の両立支援」で努力義務とされる「メンタルヘルス不調」とは、王道の 1、治療が必要である人のこと。
これは「治療と仕事の両立支援」が身体疾患である「がん/脳卒中」から始まったことからも自明。
でもこの「メンタルヘルス不調」にごちゃまぜの<メンタルの問題>が混同されてしまっている。
この3つをごちゃまぜにして対応してしまうと、
精神疾患の人の治療と仕事の両立支援もうまくいかないし、
成長への支援サポートすることもできず、
さらにはいわゆる問題社員をエスカレートさせてしてしまうことにもなりかねない。
結果として、現場が疲弊して、みんなが損をする構造になってしまう。
だからこそ、まずは「違うものが混ざっている」と考えようとすることが必要。
もちろん、複数の要素はそれぞれ混じっているものなので、
そのケースは今どの要素が強いのか、それを考える。
そうすれば、どのように対応したらよいのか見えてくることが多い。。
精神科産業医として、自分が必要とされるのは、この切り分け/見立て。
やはり難しいケースの時は、ひとつのケースの中にも、それぞれの要素が混じってきてしまっている。
未熟さの問題もあり、精神疾患になってきてしまった部分もあり、とか。
その時には、まずは精神疾患としてのサポートの部分から初めて、それを十分手を尽くしたら、次は成長のサポート、など限界を設定して対応していくことになる。
<メンタルの問題>というときにはまずこの3つの混在があることを認識して、
メンタル不調のケースに取り組むときに、
関係者で「これはどのタイプの話なんだろう?」と考えられるような、
そんな下準備をしていく。
それがいま職場のメンタルヘルス対策について取り組む、第一歩になるのではないかと思う。