おおた産業メンタルラボ

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産業医はどうしたらよかったのか 産業医のトリセツを作りたい その4

ようやく本番、
お待たせしました。
今回の産業医がどうしたらよかったのか、
ちょっと違うな、
産業医がどうしたらよかったと私が思うのか。
そんなお話。

できるだけ、これができてない、という指摘よりは、
こうしたらよかったのにな、と書いていく、つもり。

最初に産業医がしなくてはならなかったのは

面接を始めるにあたり、
産業医がしなくてはならなかったのは、
まずは目標の明確化、
次に復職とそれからの全体像の説明、
そして面接の目的、
という、復職とそれからのアウトラインを説明し、
従業員本人と合意すること。

アウトラインから始めること


そもそもの疑問、
「産業医って何する存在なの?」
「私をどう助けてくれるの?」
という従業員からの当然の問いかけに応えるためには、
まずはこの従業員の休職から復職に至る事態の全体像と、
その中での産業医の役割を示す必要がある。

なので、まずはその状況全体を俯瞰的に説明して、
従業員にも理解してもらわないといけない。

富士山に登りたい!
という人には、
まず富士山がどこにあるのか、
そして自分と富士山との位置関係、
まずはその二つの情報が必要だ。

そして富士山に至るまでの交通手段、
次にどのルートで行くのか、
そのルートを上るためにはどのような準備が必要なのか、
と続いていく

まずは目標の明確化


でもまずは、目標を明確化しないといけない。

山に登りたい!、では足りなくて、
富士山に登りたい!と定まっていなくては考えることも始められないから。

今回の場合、この課題の設定からして
産業医の意図しているものと、従業員の期待しているものがずれている。

産業医が前提としている目標は、
復職させることではない。
復職してからも容易には健康を害さないこと、
再休職に至らないこと、
働き続けられること、だ。

復職しました、また不調になりました、ではダメ、ということ。
ごく当たり前。
反論も否定の余地もない。
これが目標であることを提示されたら、従業員としては同意しないはずがない。

まずは、<復職できるだけでは足りない>ということをしっかりと抑える。産業医と従業員とで共有する。
当たり前。
だけれどこれをしなくては始まらない。


ただ、今回はこれを共有した様子がない。

もしかすると、自分が関与する目的としても理解してもいないのかもしれない。
なんとなくしか理解していないので、そこを言語化することができない。
イマイチ産業医であれば、そうかもしれない。

治療でいえば、
<治るってどういうこと?>
<良くなるってどういうこと?>
なのだけれど、
この目標を話し合うことの必要性は、
精神科医以外では理解されにくいのかもしれない。

精神科医でも、ともすればナアナアにしているくらいなのだから。

次に復職とそれからの全体像の説明


次にしなくてはならないのは、
復職が決まるまでに必要な段階とその手順を示すこと、
復職後についても同様。

これは、何をするのかといえば、
厚労省:心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~について紹介しています。www.mhlw.go.jp


・第3ステップ「職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成」
・第4ステップ「最終的な職場復帰の決定
・「職場復帰」
・第5ステップ「職場復帰後のフォローアップ」
について説明する、ということ。

特に大切なのは、
復職についての産業医面接の目的のひとつは、
産業医が休職者の状態を評価して会社に意見を言うこと、
であって、
<産業医が復職できるかどうかを決めるものではない>ということ。

同じように、主治医の「復職可能」という意見も、意見の一つ。

それらと、会社の上司や人事担当者などの意見とを合わせて総合的に
会社が、職場復帰するかどうかは決める>ということ。

なので、産業医と休職者の関係は、
「判断する人=決める人(産業医)」と「希望する人(休職者)」ではない。

「会社という組織の判断」という課題、目標をどうクリアするか、
それを「乗り越える人(従業員)」と「支援する人(産業医)」であるということ。
そんな関係性の説明と、
それに納得してもらうことが必要です。

山は一つではない


そしてさらに言えば、
「復職」という「山の登頂」が目標なのではなく、
これも、「長い会社員生活」といういくつものピークがある旅路の一部であって、
特に登頂後には「復職後」というピーク後の下りがあること、
そこで特に事故が起きやすく、谷に落ちてしまいやすい。
だから、まずは登頂(復職)してその後の下りの準備ができていないなら、
登り始めるわけにはいかない、ということも
説明しなくてはならない。

本人と産業医の共有できるゴールは、
「復職すること/させること」ではなく、
「本人と会社のために本人の健康を守ること」

本人のことだけに限っても、
「長い会社員生活」の健康を守ることが優先され、
「復職」という短期の目標は、
長期の目標の中でそれは位置づけられなくてはならない。

そんな回復とその後の経過への長期的な展望を共有すること。
それが必要です。

外在化とか、リフレーミングとか


種明かししてしまえば、
やっていることは、
「外在化」による対立関係の解消であり、
短期的な視点から長期的な視点への「リフレーミング」。

今回の事例で行けば、
そういった産業医の立ち位置に関する話や、
復職というイベントの位置づけ、
といった視点はなかったように聞こえました。
あくまで、休職者目線での切り取りですが。

私には自分のことしかわからないので、
自分によっては自明のことで、
自分が育ててきた医者には当然できることだとは思うのだけれど。
精神科産業医ならできる、というわけでもないと思うんだよな。

はたしてそういった視点でのトレーニングをされてこなかった方にとっては、どうなのか?
まあ、修行していなくてもなんとなくやっていたり、
経験とセンスのみでできていたりする方も少なくないんでしょうけど。

薬でなおしちゃうぞー、とか、
数値が良くなったでしょう!?とかしかやってこなかった方には難しいかもしれない。

今回はここまで。
続きます。