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産業医の定期訪問はリモート対応でも問題ありませんか?産業医が解説

働き方の多様化やテレワークの普及により、「産業医の定期訪問はリモートでも大丈夫なのか?」という疑問を持つ企業が増えています。特に、従業員数50人以上の事業場では産業医の選任が義務付けられており、定期的な職場訪問が必要とされるため、リモート対応の可否は重要な関心事です。

結論:一部条件を満たせば、リモートによる定期訪問も可能です

結論として、産業医の定期訪問については、原則として「実地訪問」が求められていますが、状況に応じて「リモート対応」も認められる場合があります。ただし、その可否は厚生労働省の通知やガイドラインに基づいて判断する必要があります。

リモート対応が認められる理由と条件

産業医の職場巡視の義務

労働安全衛生法第13条および第15条に基づき、産業医には少なくとも毎月1回以上の職場巡視(定期訪問)が求められます。これは、労働者の健康管理や職場環境の改善に必要な情報を収集するための重要な活動です。

厚労省の通知による柔軟対応

2020年の新型コロナウイルス感染症の影響により、厚生労働省は「特段の事情がある場合には、オンラインによる対応も可能」とする通知を発出しました。たとえば、感染症の拡大防止や離島・遠隔地などの物理的制約がある場合は、Web会議ツール等を活用したリモート対応が一定期間認められています。

リモート対応における留意点

  • リモート巡視はあくまで「例外的措置」であり、恒常的な対応は原則認められていません。
  • 現地確認が難しい部分については、写真や映像資料などの補完的手段が必要です。
  • リモート実施の際には、産業医・事業者双方が記録を残し、正当性を説明できるようにしておく必要があります。

よくある誤解

「テレワークが多いから産業医の訪問は不要」と誤解している企業もありますが、これは誤りです。たとえ従業員の大半が在宅勤務をしていても、産業医の訪問義務は継続します。また、リモート対応が可能だからといって、全ての業務を非対面で済ませることはできません。例えば、職場の空調・照明・動線などは現場でしか把握できない点が多くあります。

実務上の注意点

リモートでの定期訪問を実施する際には、以下のような点に注意が必要です:

  • 社内の安全衛生委員会等で「リモート訪問実施の理由」や「代替手段の内容」について共有・記録する
  • 現場責任者や担当者が、リモート時に産業医の代わりに施設内を撮影・説明できる体制を整える
  • 月ごとの実施記録に「リモート実施であること」「その理由」「補完資料の有無」を明記する

産業医が支援できること

産業医は、定期訪問の実施方法について企業と相談しながら、法令順守と実効性を両立できるよう支援します。具体的には以下のような対応が可能です:

  • 訪問形式(実地・リモート・ハイブリッド)の適切な選択と助言
  • リモート訪問の準備(チェックリスト、事前質問票等)の提供
  • リモート巡視時の環境確認方法の提案(動画・写真の活用など)
  • 労働基準監督署からの指摘に備えた記録作成のアドバイス

まとめ

産業医の定期訪問は原則「実地」が基本ですが、やむを得ない事情がある場合には「リモート対応」も一定条件下で認められます。とはいえ、それはあくまで例外措置であり、職場の健康管理を適切に行うためには現場確認が不可欠です。産業医としては、企業の実情に合わせた柔軟な支援を行いつつ、法令順守と健康管理の質を確保することを重視しています。リモート対応を検討している企業は、まずは産業医に相談し、適切な手順を踏むことが重要です。