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精神科主治医にできないことと、できること。復職希望に精神科主治医は その4

後の先


前回は、
患者の味方である精神科主治医は、
会社が従業員の復職に対してどう準備するかについては、
あれこれと具体的に口出しするのではなく、
「そろそろ戻りますので準備始めてくださいね」とあらかじめ呼び掛けて、
十分な準備期間を作るのが大切、
と書きました。

まともな会社であれば、
会社の環境が主なきっかけで社員が不適応になったとしたら、
それに対しては対策してきます。
その動きを促して、それを受けてどう対応するか、
つまり「後の先=カウンター」を取っていく、ということです。

あまりに当たり前なので、どうにも受けが悪かった様子。
まあそうですよね。
当たり前のことに驚きはないですからね。

さすがこの記事を読んでくださっている皆さんです。

ではどのように「後の先」をかますのか


で、どのように反応していくのか、ということですが、
復職準備を促してあれば、
復職に向けて会社から「復職後の業務プランや配慮」について提示があり、
それが示されたうえで「復職後の配慮についての主治医意見」の求めがあります。

その「復職後の業務プランや配慮」の内容を見て、
患者さんと相談しながら、そこに不足する内容を「主治医からの意見」という形で依頼/提案します。

目指すところは、
休職に至ったきっかけとなった業務を、どう乗り切るか。

今度こそは、どのように不適応を、
避ける/攻略する/それから守る/助けてもらうのか、
それを相談していくのが復職とその後に向けた治療/支援になります。

具体的主治医意見書として書くのは、
<業務量について配慮をお願いします>
<意思決定について配慮ください>
<業務上の困難があった時の相談先を明確化いただけるようお願いします>
といったところでしょうか。

会社の意見に足らないところや、強調しておきたいところについて触れておく。
それだけです。
あまりこうしろああしろなんて書いても
「勉強しなさい!」効果しか出ません。

もし会社からの主治医意見の要求がなかったら


もし会社から主治医意見の要求が来なかったらどうしましょう。
まあ普通に考えて要求してこない会社はないわけですが、
たまさかなにかぼんやりしていると、
患者さんにだけ復職後のプランを伝えて、
主治医意見の要求が来ないかもしれません。

そんな時にも別に対応は同じです。
患者さんからそのプランの内容を聞き、
不足すると考える配慮の内容などについて意見すればいいだけです。

大切なことは、会社の出方を見てから、
必要なら一発かますこと。
またはかまさないこと、それも治療です。

会社が十分な配慮をしてくれているようだったら


会社の配慮が精神科主治医からみて十分で、
とりあえず付け足すこともなさそうだったら?

喜びましょう!イイね!

患者さんはこれで大丈夫なものなのかどうか不安なものです。
でも、「絶対に大丈夫」なんてありえないわけで。
つまり、そこで必要なのは、患者の味方である主治医からの、
「絶対はないけど、手は尽くしてくれてあると感じますよ」
という保証です。

やってみるしかない。
人事を尽くして天命を待つ。
これも一面の真実です。

患者さんが再び旅に出るハナムケ、そして応援しか主治医にはできません。

患者さんの期待に応えられない


そんなことじゃ患者さんの期待に応えられない?

そう。その通り。

会社での環境をうまいこと変えてほしい、
不適応を繰り返さないような環境を作ってほしい、
という患者さんの期待にすべて応えることはできないんです。
一番大きな理由は、そこは主治医のフィールドではないから。

治療内容、治療の進め方については、
主治医のフィールド内ですが、
会社での業務、会社での環境については、
会社のフィールド。

会社での就労環境、という戦いの場に戻る患者さんに対して、
主治医ができるのは、
不適応ストレスに対してどう立ち向かい、
逃げたりかわしたり、応援を呼んだりするのか。
正面から戦って打ち勝つばかりが成長する方法ではありませんから。

そんなサバイバル術を間接的に教えたり、誘導したりすること。
それが治療の場から出て戦いの場に戻っていく患者さんに対して、主治医ができること。
それだけだと思うのです。

この辺りの考え方、たちまわりは、
産業医を経験したり、
患者さんが回復するということを考えてきた精神科医と、
病院で薬だけ出している精神科医の違いが出てくるところなのかもしれません。

精神科医の力


復職する患者さんの主治医をするということは、
歯がゆくもどかしく感じることも多く、
面倒くさく感じたりする精神科医も少なくないように思います。
だからこそ、意見を求められる前に「先の先」を打とうとして、
それで切り捨てようとしてしまうのかもしれません。
といってそれは患者さんの役には立たない。

そしてそのもどかしい状況、
自分がコントロールできない状況で、
患者さんがサバイバルする力を高めていく、
そのお手伝いをできるようになることが、
精神科医の治療力なのだと思うのです。

どうやってそれを身につけるのか。
今のところ、私が有用だと感じているのは、
Solution Focused Approachと青木省三先生の著作です。
もしご興味がありますれば。

また当たり前のことばかり書いてしまった。
でもまだ納まりきらないので、あと少し、

次回は、精神科主治医が意見書に「異動が必要である」と書くことの意味について書こうと思います。