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精神科産業医が解説:アレキシサイミア(失感情症)とは?感情を感じにくい人への理解と支援の重要性

現代社会では、ストレスや対人関係の複雑化により「自分の気持ちがわからない」と訴える人が増えています。その背景にある概念の一つが「アレキシサイミア(失感情症)」です。これは、感情を感じ取ることや言葉にすることが難しい心理的特性を指し、メンタルヘルスや職場のストレス管理において重要なテーマとされています。ここでは、産業医の視点から、アレキシサイミアの理解と職場での対応について解説します。

アレキシサイミア(失感情症)の定義と特徴

アレキシサイミアとは、ギリシャ語で「感情を言葉にできない」という意味を持つ言葉で、1970年代に精神科医ピーター・シフネオスによって提唱されました。特徴としては、①自分の感情を認識しにくい、②感情を他人に説明できない、③想像力や空想の乏しさ、④外的事象への過度な関心などが挙げられます。こうした傾向はうつ病や不安障害、心身症といった疾患に併発することも多く、医療現場だけでなく、職場におけるメンタルヘルス管理の課題としても注目されています。

アレキシサイミアの原因と背景

アレキシサイミアの原因は単一ではなく、脳の構造的特徴や発達環境、ストレス体験などが複合的に関係しています。特に幼少期における感情表現の抑制や、家庭内で感情を共有する機会の少なさが影響することが指摘されています。また、近年の研究では、脳の前帯状皮質や扁桃体など感情処理に関与する部位の機能的な違いも報告されています。産業医としては、職場ストレスや過重労働によって一時的に感情認識が鈍化する「二次的アレキシサイミア」にも注意を払う必要があります。

職場におけるアレキシサイミアの影響

職場においてアレキシサイミア傾向がある人は、感情表現が乏しく、周囲から「冷たい」「何を考えているかわからない」と誤解されることがあります。また、自分のストレスや疲労に気づきにくいため、うつ病やバーンアウトを発症するまで無理を続けてしまうケースもあります。産業医としては、こうした従業員の特徴を理解し、本人の感情表出を促す面談や、心理的安全性の高い職場環境の整備を支援することが重要です。

アレキシサイミアとメンタルヘルス対策

アレキシサイミアを持つ人に対しては、一般的なカウンセリングやストレスチェックだけでは十分な効果が得られないことがあります。なぜなら、本人が「ストレスを感じている」と認識できないためです。そのため、産業医は身体症状(頭痛、倦怠感、胃痛など)に注目し、心理的ストレスの可能性を探る必要があります。また、心理士や主治医と連携し、感情ラベリング訓練やマインドフルネスなど、感情認識を促す支援を提案することが有効です。

産業医による支援と組織的アプローチ

組織としても、アレキシサイミア傾向の従業員が孤立しないよう、上司や同僚が感情表現に対して寛容な文化を作ることが大切です。産業医は、定期的な面談やストレスチェック結果のフィードバックを通じて、本人の気づきを促すとともに、管理職への教育も行うことが求められます。さらに、業務負荷の調整やコミュニケーション研修を通じて、感情を共有しやすい職場づくりを支援します。

まとめ:感情を「感じにくい」人を支えるために

アレキシサイミアは、単なる性格特性ではなく、心理的・生理的な背景を持つ重要な概念です。職場でのパフォーマンス低下やメンタル不調のサインとして現れることも多く、早期発見と理解が欠かせません。産業医は、感情表出が苦手な人に対しても非言語的なサインを見逃さず、専門的な支援につなげる役割を果たします。企業としても、感情を表現しにくい社員が安心して働ける環境づくりを意識することが、組織全体のメンタルヘルス向上につながるでしょう。