10月16日、17日と群馬県高崎市はGメッセぐんまで行われた精神科救急学会に参加してきました。
Home | 第33回日本精神科救急学会学術総会会 名:第33回日本精神科救急学会学術総会 テーマ:精神医療の新しい景色を精神科救急から拓く 会 期:2025年10月1med-gakkai.jp
それに刺激されて、今回は精神科救急について、
解説+語ってみます。
精神科産業医が解説:精神科救急とは?企業や社会を支える心の安全ネットワーク
近年、メンタルヘルスへの関心が高まる中で、「精神科救急」という言葉を耳にする機会が増えています。うつ病や不安障害、統合失調症などの精神疾患は、誰にでも起こりうる問題であり、急激な症状の悪化や自傷他害のリスクを伴う場合、迅速な対応が不可欠です。
精神科救急は、まさに「心の救命医療」として、危機的状況にある人の命と社会的機能を守るための仕組みです。企業や職場においても、産業医が関わる場面が少なくありません。
精神科救急の定義と目的
精神科救急とは、急性期の精神障害や行動の異常、強い自殺念慮など、緊急性を伴う精神的危機に対して迅速かつ適切に対応する医療体制を指します。
その目的は、患者本人の安全確保だけでなく、家族や周囲の人々への被害を防ぎ、早期の治療と社会復帰につなげることにあります。
一般的な救急医療が身体的な「命の危機」を扱うのに対し、精神科救急は「心の危機」に焦点を当てています。判断が難しいケースも多く、現場では医療機関、警察、福祉機関などの連携が欠かせません。
精神科救急の三段階体制
日本の精神科救急は、緊急度と対応範囲に応じて「一次」「二次」「三次」の三段階体制で運用されています。
一次救急は、外来レベルでの緊急対応を行う地域の医療機関です。
二次救急は、入院を要する中等度の急性期患者を受け入れる病院が担い、夜間や休日も含めて対応します。
三次救急は、極めて重篤な状態や暴力行為、自傷他害のリスクが高いケースを扱い、専門の精神科救急病棟で集中的治療を行います。
この体制により、患者の状態に応じた迅速な対応が可能となり、医療資源の適正な運用が図られています。
産業医が関わる精神科救急の現場
職場においても、メンタルヘルス不調が急激に悪化し、精神科救急対応が必要になることがあります。
例えば、長時間労働やハラスメント、突然の異動や責任の重圧などを背景に、従業員が強い不安や抑うつ状態に陥るケースです。
自殺念慮や異常言動が見られた場合、産業医は早期に状況を把握し、医療機関への受診や家族・上司との連携を調整します。
この際、重要なのは「迅速さ」と「安全の確保」です。産業医は労働者の健康管理を担う立場として、救急対応が必要なレベルかどうかを判断し、場合によっては警察や救急隊への連絡も行います。
精神科救急の専門医療機関とつながるルートを日頃から確保しておくことが、企業リスク管理の観点からも極めて重要です。
精神科救急と職場復帰支援
精神科救急を経た従業員は、急性期治療後も再発予防と社会復帰の支援が不可欠です。
退院直後は心身ともに不安定であり、焦って職場復帰を急ぐことは再燃のリスクを高めます。
産業医は主治医の意見をもとに、復職時期や業務内容の調整、勤務時間の段階的な増加などを慎重に検討します。
また、職場の上司や人事部と協力し、再発防止のためのサポート体制を整えることも欠かせません。
これは「医療」と「労働」の橋渡しを行う産業医の重要な役割の一つです。
精神科救急における社会的課題と展望
精神科救急の現場では、医療機関の受け入れ体制不足や、地域による格差が依然として課題です。
特に地方では、夜間や休日に対応できる精神科救急病院が限られており、搬送先が見つからないケースもあります。
また、警察や救急隊が初動で対応する際に、精神疾患への理解が十分でない場合もあり、適切な連携が求められます。
今後は、地域精神医療のネットワーク強化、企業のメンタルヘルス教育の充実、そして職場と医療の連携促進が鍵となるでしょう。
産業医がその調整役として果たす役割は、ますます重要になっています。
まとめ
精神科救急は、心の危機に直面した人を支えるための重要な医療体制です。
職場においても、急激なメンタルヘルス不調に対して適切に対応できるかどうかが、企業の安全文化や信頼性に直結します。
産業医は、従業員の命と健康を守るための最前線に立ち、救急医療との橋渡しを担います。
もし職場で精神的に危険な兆候が見られた場合には、ためらわず専門医療機関や産業医に相談することが、本人にとっても組織にとっても最善の選択です。
精神科救急学会@ぐんまに参戦しまして
さて、精神科救急学会が群馬で行われました。
これをお読みの方のほぼ全員がご存じないでしょうが、
実はこの群馬、精神科救急の先進地域なのであります。
かつて主催を持ち掛けられ、同じ年での連続開催を避けて
司法精神医学会を選んで早10余年。
ついに群馬に来たか。
そんな感慨もひとしおな私でありました。
恒例の大会長講演はなく、
代わりなのかメインはレジェンド武井満講演。
けしてこの精神科救急界隈の中心ではない。
けれど無視しては精神科救急を語れない業界の巨人。
そして教育講演は山梨の三澤史斉。
次世代の精神科救急の知性を担う存在。
私の同学年。
精神科2年目に知己を得てから、ただ畏敬の念を抱き続ける綺羅星。
感想としては、
「精神科救急とは措置移送!」
「まずそれを打ち立てて、のちに司法精神医療をはじめとするすべての精神医療が好循環しだす」
という群馬方式を中心とした学会だと感じました。
やっぱし。
変わらない
群馬方式の措置移送システムは素晴らしい。
けれど、それが他地域で敷衍されるようになったか、
というと伝播していってはいない。
そして、精神科救急の抱える問題点は、
対応する人口が多すぎる、
お金がつかない、人手がない、理解が得られない、
対応する人が変わると0からスタートの繰り返しになってしまう、
緊急事態の主役である警察は精神科救急どころではない、
といった課題。
10年ひと昔前と全く変わっていない。
なんとなれば、20年前の私が精神科救急の人になったころから変わっていない。
この学会でいつもお相手してくださる他県の先輩もおっしゃっていました。
「20年前と、参加しているメンツも意見を戦わせている内容も全く変わらない」
そうかもしれない。

進んだこと、変わらないこと
この精神科救急の業界の大きな進歩といえば、
「スーパー救急」こと、精神科救急入院料病棟が普及したこと。
すなわち、「精神科救急」というものが生まれ出たこと。
JAEP 精神科救急入院料病棟認可施設数www.jaep.jp
しかし、その後は、スーパー救急病棟の乱立から診療報酬が抑制傾向にされるなどの、「病棟できました!」とか「経営どうする?」、で。
「こうするのがいいよね」には至らず。
その精神科入院治療に至る前の移送の問題であるとか、
その精神科救急を地域の精神科医療にどう位置付けていくか、
警察や行政といった関係する業界とどう連携していくか、社会にどうつながっていくか、
身体合併症、身体科医療との連携、
といった次の課題にはなかなか波及していかず、
あーじゃないこーじゃないのまま、10年以上が過ぎている。
自分自身を振り返っても、
精神科救急メインの人から、
一時は総合病院での精神科医療を構築しようとし、
そして今は、
精神科産業医と地元地域の精神科医になってきている。
変わらない、けどね。
なんでいつまでも変わらないのか
その最大の要因は、
その地にはその地の精神医療があるということ。
人口当たり病床数が、200万人当たり5千床の群馬県と
200万人当たり1万床の鹿児島県とでは、
行われている医療は全く違っているはず。
そして田舎の救急と、都市部の救急も全く違っているはず。
そして、もう一つは、
精神疾患がその存在が目には見えない行動の病であり、
恐れからくる偏見からは逃れられないこと。
これもまたなくならない。
でも。でもね。
違いがなくならないことと、
良くなっていかないことは全く違う話。
遠く離れた地のことはわからないし変えられないけれど、
自分の関わるところは帰られても良いはず。
自分の地域、とまではいかないかもしれない。
自分で病院を作ったり、買ったりする力もない。
でも、自分の取り組みは自分で決められる。
まずは自分の手の届く範囲、
それよりはもうちょっと遠く、周囲5mの範囲が良くなっていくように。
自分の知り合った人がやりやすくなるように、不幸が減るように。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ」 byやっぱり安西先生
自分の手の届くことを続けていくしかない、
そう思いなおしたことでした。
以上、「精神科救急について考えたら、スラムダンクだった」でした。
