嘱託産業医は複数企業と契約可能です
結論から言えば、嘱託産業医は複数の企業と契約することが可能です。労働安全衛生法上、産業医の兼務に関する明確な制限はなく、企業ごとの選任要件(従業員数50人以上など)を満たしていれば、複数社と契約しても問題ありません。
なぜ複数契約が可能なのか
労働安全衛生法第13条では、企業は一定規模の事業場において産業医を選任する義務がありますが、その産業医が専属か嘱託かは、事業場の規模により異なります。嘱託産業医は、原則として週1回・月1回などの頻度で訪問する形態であり、常駐義務がないため、他の企業との契約が認められています。
ただし、契約先が増えることで、業務の質や時間的制約に影響を及ぼす可能性があるため、産業医自身の管理能力やスケジュール調整が求められます。
よくある誤解
「1人の産業医は1社しか担当できない」といった誤解がありますが、これは専属産業医に関するイメージの混同が原因です。常時1,000人以上の労働者がいる事業場では、専属産業医が必要となり、その場合は基本的に1社専任となります。一方で、嘱託産業医はこの制約を受けません。
実務での注意点
訪問頻度や契約条件の明確化
契約時には、訪問頻度・業務内容・報告書の提出方法などを明確にしておく必要があります。企業側も、産業医が他社と兼務していることを把握し、連絡体制の整備や業務調整が求められます。
健康情報の管理
複数企業と契約している場合、企業ごとの従業員情報・健康情報を厳密に分けて管理することが求められます。情報漏洩リスクを防ぐため、セキュリティ対策やクラウドシステムの利用も検討しましょう。
産業医が提供できる支援
嘱託産業医は、以下のような支援を複数企業に対して提供することが可能です。
- 定期的な職場巡視とリスクアセスメントの実施
- ストレスチェック結果の分析と職場改善提案
- 長時間労働者への面接指導
- 衛生委員会への参加と指導助言
こうした業務をスムーズに行うためには、企業との信頼関係の構築と、柔軟なスケジュール調整が重要です。
まとめ
嘱託産業医は、法的にも実務的にも複数の企業と契約することが可能です。ただし、兼務による業務負担や情報管理、企業ごとの対応体制など、注意すべき点も多くあります。企業側も産業医との連携体制を強化し、よりよい産業保健体制の構築に努めることが望まれます。
産業医として複数社に貢献する際は、自身のキャパシティを正確に見極め、各企業に質の高い支援を提供できるよう心がけましょう。
