友人伝いに、一見さんから精神科医療に関して相談されることがあった。
仕事の枠ではない相談。
そんなとき、相談してくるのは、たいてい自分のことではなくて。
精神科に受診している、
または精神科受診が必要だろうかと思う家族のことについて。
今回もそのパターンで。
まあそのことについては、そのうちまた書くかもしれないけれど、
今回はそのことで考えた。
「この相談って、果たしてどれくらいの価値があるんだろう?」
ということ。
というのは、
そんな時、自分としては「ごく当たり前じゃないか」と思うようなことしか言えないのだけれど、
でもその当たり前は、それほど短くない自分の経験から生み出されたものなわけで。
でも、この自分の考えや経験からくる発想が、
自分にはどれだけの価値があるのかよくわかっていないのじゃないか。
というのは、
自分自身は専門家だから。専門家でなかったことはないから。
いや、昔はただの無知な学生だったこともあるわけだけれど、
それは置いておいて。
今の自分との相談にどれだけの価値があるのか。
価値はまあともかく、どれだけの裏付けがあるのか。
ということで、
専門家1万時間説:「ある分野で専門家になるには1万時間の勉強が必要!」
について語ってみる。
「1万時間の呪い」とどう付き合うか:精神科産業医が本音で語る専門性の育ち方
働いていると、何かと耳にする “1万時間で専門家になれる” という話。
ビジネス書にもよく出てきますし、「じゃあ自分も頑張らなきゃ」と焦りをあおられた方も多いでしょう。
しかし、精神科医・産業医として現場をみていると、この1万時間説は 単なる努力量の話ではなく、働き方や人的資本、そしてメンタルヘルス と深く関わる概念だと言えるでしょう。
今日はこの話を、少し噛み砕いて整理してみます。
結論:1万時間は“指標”であって“呪い”ではない
1万時間はあくまで「熟達のひとつの目安」にすぎません。
時間だけを追いかけると、心身の健康を損ない、むしろ学習効率は落ちるでしょう。
大事なのは、質の高い学びを継続できる環境と、自分のペース感です。
1万時間説の背景:必要なのは「深い練習」
この説の元になったのは、アンダース・エリクソンの「熟達化理論」。
よく誤解されますが、彼が言ったのは次のようなことです。
- ただ繰り返せば上達するわけではない
- 主体的に考え、課題を設定し、フィードバックを受けながら行う「熟慮された練習」が必要
- その量が積み上がると専門性が形成される
精神科医として言うなら、「量」より「認知的負荷の質」をどれだけ積めるかが重要ですね。
そして当然、人によって必要量は違います。
現実の職場では“1万時間”を妄信できない理由
仮に年1000時間成長のために投資したとしても、専門家になるには10年。
しかし、多くの働く人には次の制約があります。
- 日々の業務に追われ、学習時間を確保できない
- 家庭との両立や介護などのライフイベント
- 心身のコンディションの揺らぎ
- 職場のサポートや文化の差
産業医として言えば、長時間労働で消耗している状態では学習効率は著しく下がるという現実があります。
「働きながら成長する」というのは、思った以上に高度なバランス技術なんですね。
成長圧とメンタルヘルス:行き過ぎると“自己否定”になる
専門性を高めたいという気持ちは素晴らしいことでしょう。
しかし、現場では次のような状態に陥る人も少なくありません。
- 「もっとやらないといけない」と終わりのない義務感
- 他者と比較し続けて自己評価が低下
- 成長の遅れを“性格の問題”と誤認
- 視野が狭まり、燃え尽きの前兆に気づけない
精神科医として診ていると、「成長意欲が高い人ほど折れやすい」という逆説もあるのです。
人間はロボットではありません。
1万時間説は あくまで目安であり、マイペースに進めるための“距離感”として使うもの と考えるのが自然でしょう。
組織ができる支援:個人に背負わせすぎない
専門性の育成を個人の努力に丸投げする組織は、結局、人を消耗させます。
健全な成長が続く職場には、次のような仕組みがあります。
- 業務負荷の最適化
- 学習時間を公式に確保する文化
- OJT、メンター、1on1などの育成支援
- 「頑張る人」に依存しない体制
産業医として現場を見ると、意識の高い人ほど過剰な負荷を抱えがちです。
組織側が意識して“努力できる環境”を整えないと、専門性どころか健康まで失われます。
まとめ:1万時間は「プレッシャー」ではなく「地図」
1万時間説は、専門性形成を考えるうえで参考になる視点のひとつです。
しかし、時間だけを追いかけるのは危険でしょう。
- 働き方
- 健康状態
- 学び方の質
- 職場の支援体制
この4つを総合的に見て、自分なりのスピードで専門性を積み上げるのが現実的です。
もし成長のペースに悩んだり、負荷が大きいと感じたら、産業医や専門家に相談することをためらわないでください。
健康を守れない成長は、長い目で見ると“成長ではない”からです。
アンドモアー
自分の時間
これまでに費やしてきた時間を自分の事で考えると、
精神科医になってから25年。
18歳で医学部に入ってから約30年。
1日1時間勉強したとして、
30年×365日×1時間で約1万時間。
えっへん、専門家でござーい。
実際、
1日1時間というのは究極に見積もって最小の時間であって、
平均したとしてもまあその3から5倍くらいの時間は費やしているだろう。
1日8時間がビジネスタイムで、
年に200日働いたとして、
年に直したら1日4時間以上。
とすると4万時間くらいか。
時給換算
時給換算してみると、
昨今の最低賃金で考えても時給1000円で、
自分の経験は4000万円分。
まあまあだな。
医師の時給ということでその数倍には考えても許されるかな。
まあまあどころかびっくりだな。
読んだ本の冊数で
読んだ本の数にして、1週間に1冊として、年に50冊。
30年で1500冊。
正確にはわからないけれど、週に1冊では少なすぎる。
倍として3000冊くらいは読んでいるのだろう。
30年3000冊として、1冊1500円で450万円分の本。
多いような、少ないような。
でも3000冊分の知識が反映されている、というのは悪くない感じ。
どうやら自分も「専門家1万時間説」はクリアしているらしい。
そして、
時給にして数千万円分の経験/修行が反映されているらしい。
まずまずビックら。
ヨタもおちおち飛ばしてられない。
これからも精進いたします。
