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『影響力の武器』のすごさを精神科産業医として語りたくなった

なぜ『影響力の武器』は40年以上たっても色あせないのか


また名著、「影響力の武器」(原題:INFLUENCE)のすごさを語ってみたくなりました。

『影響力の武器』の初版は1984年。
なんと今から40年以上前の本です。

影響力の武器[新版]:人を動かす七つの原理 
2023/11/10
ロバート・B・チャルディーニ (著)
https://amzn.asia/d/fV2Sd4U

影響力の武器[新版]:人を動かす七つの原理amzn.asia


『影響力の武器』がすごいのは、「人が動いてしまう仕組み」の基本構造が、40年以上ほとんど変わっていないことを証明している点
にあります。

精神科医として日々人の行動を見ていても、これは強く実感するところです。

40年前の理論が、今も標準理論である理由


『影響力の武器』は1984年に初版が出版された古典です。
実に今から40年以上前。

にもかかわらず、ここで提示された影響力の原理は、
今でも
・マーケティング
・組織マネジメント
・医療現場
・SNSやコミュニティ運営
など、あらゆる場面で「基本理論」として使われ続けています。

これは珍しいことです。
心理学の理論は、流行り廃りが激しいですからね。

人が無意識に従ってしまう6つの原理

チャルディーニが整理したのが、次の6つです。

  • 返報性
    何かをもらうと、お返ししなきゃと思ってしまう
  • 一貫性
    以前の自分の言動と、つじつまを合わせたくなる
  • 社会的証明
    みんながやっていると、正しそうに見える
  • 好意
    好きな人・感じのいい人の言うことは信じやすい
  • 権威
    肩書きや専門性に弱い(医者も例外ではない)
  • 希少性
    「今だけ」「限定」に弱い

精神科の診療をしていても、
これらが無意識レベルで行動を決めている場面は本当によく見ます。

教科書的に言えば「認知バイアス」ですが、
臨床の現場では「人間らしさ」と言ったほうがしっくりきますね。

第7の原理「一致(ユニティ)」が意味するもの

そして2023年の「新版(第4版)」で、もう一つ追加されました。

  • 一致(ユニティ)
    「同じ仲間」「同じ属性」だと感じる相手には従いやすい

これは、SNS時代を見事に言語化しています。

  • 同じ界隈
  • 同じ被害体験
  • 同じ価値観

こうしたアイデンティティの共有が、影響力を一気に高める。

支援現場や組織運営でも、
「誰が言うか」より「誰の仲間か」が重要になる場面は増えています。

なぜ時代が変わっても通用するのか


その理由はシンプルです。
・テクノロジーは進化する
・社会構造も変わる
・でも人間の非合理性はほとんど変わらない

論語に「人の性は近し、習いによりて遠し」とありますが、
影響力の原理はまさに「近い部分」を突いてきます。

精神科医としての診療経験から言っても、
人は「論理」で動く存在ではありません。

後から論理をつけて、納得しているだけです。

名著であり続ける理由


『影響力の武器』が名著であり続ける理由は、
・人間の行動原理を、実験に基づいて整理したこと
・時代に合わせてアップデートし続けていること
・そして何より、人間の本質を突いていること
そこに尽きます。

「人を動かしたい人」だけでなく、
「動かされないために理解したい人」にとっても、
今なお必読書です。

未読の方は是非読むべきですし、
もう読んだよ、という方も、
この年末にでもまた手に取ってみていただいたら、
きっと新しい発見があると思います。

ちょっと暴論:精神科医は最初に読むべき心理学の本は『影響力の武器』である


世に心理学の本は数あれど、
精神科医が最初に読むべき心理学の本は、
ロバート・B・チャルディーニの
『影響力の武器』です。

フロイトより、ユングよりも先にこれを読むべき。

これは営業本でも、説得テクニック集でもない。
精神科診療の「前提条件」を書いた本だと思う。

「カチッ・サー効果」という、あまりに重要な発見

『影響力の武器』で有名になったのが
カチッ・サー効果です。

・ある刺激(カチッ)が入る
  ↓ すると人は考えずに
・決まった反応(サー)をしてしまう

この流れを、チャルディーニは極めて平易な言葉で、
カチッ・サー効果と説明しました。

多くの人はここでこう言うと思います。
「営業とかマーケティングの話でしょ?」

ええ、教科書的にはその理解で正しい。
でも、精神科医としては、まったく違う景色が見えてきます。

カチッ・サー効果は「心理テクニック」ではない


精神科医の視点で見ると、
カチッ・サー効果はテクニック論ではありません

これは、
”人間は思っている以上に考えずに反応している”
という事実の記述です。

たとえば、診察室でよく聞く言葉。
・「先生にそう言われたので…」
・「普通はそうじゃないですか」
・「みんなやってますから」
これ、論理的判断に見えますか?
実態はほぼ反射です。

精神科医が毎日相手にしているのは、
この「考える前に動く心」そのものですね。

精神疾患の正体は「自動反応の暴走」


働く場面でも、
・上司の声を聞いただけで体が固まる
・特定の表情を見ると一気に怒りが出る
・ある言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になる
こんな場面に山ほど出会います。

これは性格でも、根性論でもない。
過去の経験で条件づけられた
「カチッ」に対する過剰な「サー」の反応
です。

うつ病、不安障害、PTSD、適応障害。
診断名は違っても、共通した心理的な反応が起きています。

サーが早すぎて、
思考が追いつかない。

精神疾患とは、
ある意味で時間の障害ですね。

精神科医がこれを知らないと、普通に危険

少しきつい言い方をします。

精神科医が
『影響力の武器』を読まずに精神療法を学ぶのは、
解剖学を知らずに手術するようなものです。

患者さんはすでに、
家庭や学校、職場、社会、
あらゆる場所で
無数の「影響力」を浴びきっています。

そこに無自覚な言葉を投げると、
・新しいカチッを作り
・サーを強化し
・症状を固定化する
そんなことが起きてしまいかねません(自戒)。

『影響力の武器』は「人を操るための本」ではない


ここは誤解しないでください。
この本は、
・人を操るため
・説得力を高めるため
の本ではありません。

精神科医にとっては、
影響を見抜くための本
です。

自分の一言が、
どんなカチッになりうるのか。
どんなサーを引き起こすのか。

それを自覚するための教科書です。



やっぱり「影響力の武器」ってタイトルがウケないんかなぁ。。。