「影響力の武器」といえば、
なんといっても、カチッ・サー効果。
今回は、そのカチッ・サー効果が、職場のメンタルヘルスにどう表れてくるのかについて語ってみます。
影響力の武器[新版]:人を動かす七つの原理
2023/11/10
ロバート・B・チャルディーニ (著)
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なぜ、その一言で心が折れてしまうのか
職場のメンタル不調は、「たった一言」が引き金になることがあります。
その背景を理解するキーワードの一つが カチッ・サー効果 です。
精神科産業医としてハラスメント事案や不調者対応に関わっていると、
「そこまで言われていないのに、なぜここまで悪化したのか?」
という場面に、何度も遭遇します。
教科書的には「ストレス耐性」や「個人差」で片づけられがちですが、
臨床の現場では、もう少し具体的な説明が必要になることが多いです。
そこで出てくるのが、このカチッ・サー効果です。
カチッ・サー効果とは何か
カチッ・サー効果とは、
ある刺激(カチッ)に対して、深く考える前に自動反応(サー)が起こる心理現象 を指します。
イメージとしては、こんな感じです。
・スイッチが「カチッ」と入る
・条件反射のように「サー」と反応が出る
↓
・思考を介さない。
・理屈を考える前に、体や感情が先に動く。
これがポイントですね。
日常生活では、
・自動ドアを見ると立ち止まる
・「セール中!」と聞くと得した気になる
こうしたものも、広い意味では同じ仕組みです。
本来は、人間が効率よく生きるための機能なんですよ。
職場で「カチッ」になりやすいもの
問題は、職場でもこの仕組みが強く働く点です。
産業医面談で、よく聞く訴えがあります。
・上司に強い口調で名前を呼ばれた瞬間、動悸がした
・皆の前で注意された途端、頭が真っ白になった
・その人の足音を聞いただけで体が固まる
そんな条件反射。
上司の言葉などは、発言内容だけを文字にすると、
「そこまでひどいことは言われていない」ケースも少なくありません。
しかし本人の中では、
・過去の叱責体験
・失敗して強く責められた記憶
・否定された感覚
こうした経験と刺激が結びついて、
スイッチが入ってしまうわけです。
重要なのは、
「悪意の有無とは無関係に、反応は起こる」
ということ。
これは管理職側も知っておかないと危険です。
メンタル不調との関係
カチッ・サー効果が繰り返されると、どうなるか。
・常に緊張が抜けない
・特定の人や場所を避ける
・出社前から不安や吐き気が出る
といった過緊張から身体化した症状が出てきます。
そして、こうした状態が続くと、
・適応障害
・抑うつ状態
となってくるリスクが高まるでしょう。
精神科医としての診療経験から言うと、
「原因がはっきりしない不調」の裏に、
この自動反応が隠れているケースは少なくないように思います。
精神科産業医が重視するポイント
精神科産業医として見るとき、
単に「症状があるかどうか」だけでは不十分です。
見るのは、
・何がカチッになっているのか
・どの場面で反応が出るのか
・誰との関係で起きやすいのか
といったことです。
これが整理できると、
・配置配慮
・業務内容の調整
・指導方法の工夫
といった、具体的な職場対応に落とし込みやすくなります。
感情論ではなく、環境調整の話にできる。
これが産業医介入の強みですね。
職場でできる予防と対応
まず大前提として、
”人は合理的に反応しているとは限らない”
このことを共有することが重要です。
管理職側ができる工夫としては、
・指導は人前を避ける
・声のトーンを意識する
・余計な一言を足さない
これだけでも、無用な「カチッ」は減らせます。
一方、本人側も、
・自分は何に反応しやすいのか
・どんな場面が苦手なのか
これを言語化できると、対処の選択肢が増えます。
産業医面談や相談窓口は、その整理をする場でもあります。
「自分が弱いから」ではない
最後に、これだけは強調しておきます。
カチッ・サー効果は、
性格の弱さでも、甘えでもありません。
誰にでも起こり得る、脳の仕組みです。
論語に「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とありますが、
職場の指導も同じですね。
正しさが、そのまま安全とは限らない。
違和感や不調を感じた時点で、
「気のせい」で片づけないこと。
時には早めに産業医へ相談すること。
それが、長く健康に働くための、現実的な選択肢と言ったら言い過ぎかな。
この項ここまで。
アンドモアー
「影響力の武器」は金字塔であるがゆえに、
二匹目のどじょうを狙った本も山ほどある
セルフ二匹目探しで「実践編」とか「マンガ版」なんてのもあった。
そんで、まんまと誘われてみてはリリースを繰り返すわけですが (苦笑
ススメテナイヨ
でも、2023に出た
オンライン・インフルエンス:ビジネスを加速させる行動科学
2023/3/30
B.ボウタース (著), J.フルン (著),
オンライン・インフルエンス:ビジネスを加速させる行動科学amzn.asia
は、良いかもしれない。
中身はまあ、Webサイトの人を誘導するための仕組みの解説本なのだけれど、
理論が伴っているのは良いと思う。
「影響力の武器」をサイト構築にどう利用するのか、を考える人には良いかもしれない。
翻訳本が読みにくくて好きでない、
という人にはつらいだけなので、万人にお勧めはしませんが。
ああ、そうか。
「影響力の武器」というタイトル(カチッ)
で
「カートに入れる」(サー)
にまんまとはまっているわけでした。
今気が付いた。
