※実際の相談内容とは改編しています。
多分、もうこれは産業医あるあるだと思うのですが、
人事担当者や管理職から、
「これはハラスメントでしょうか?」
と相談を受けることがあります。
特に悩ましいのは、その相談の中に、精神面や健康面の変化を疑わせる情報が含まれている場合です。
たとえば、
・最近急に怒りっぽくなった
・夜中に大量のメールを送るようになった
・会議での言動が変わった
・以前と様子が違う
といった話です。
でもここには地雷が隠れています。
こんな時にまず大事なのは、
「ハラスメントか、健康問題か」
という二択から意識的に降りることです。
「ハラスメントか健康問題か」では整理できない
先日も、産業医顧問先の人事の方から
こんな相談を受けました。
「ある管理職が、最近部下に厳しく当たるようになりました。
夜中にも大量のメールを送っています。
部下からはハラスメントではないかという声も出ています。」
「これってハラスメントになるんでしょうか?」
「先生はどう判断しますか?」
きたきた。来ました。
この段階で、
「それはハラスメントですね」
とか、
「それは違いますね」
「精神疾患がありそうですね」
と答えるのは早すぎます。
なぜなら、まだどちらとも分からないから。
実際には、
本人の健康状態、
睡眠、
業務負荷、
管理職としての能力、
人格特性、
組織の状況など、
さまざまな要素が重なり合って、今の状況ができているはずだからです。
「ハラスメントなのか」
「精神疾患なのか」
という極端な二択だけで整理しようとすると、
かえって状況を見誤ることがあります。
産業医がまず考えるべきなのは、
「いま、この人や現場に何が起きているのか」
です。
産業医はハラスメント認定者ではない
まずここで押さえておきたいのは、
「産業医はハラスメントの認定者ではない」という原則です。
ハラスメントに該当するかどうかは、
会社が調査し、判断する事項です。
「これはハラスメントでしょうか?」
と聞かれたとき、私ならこう答えます。
「ハラスメント該当性の判断は会社で行っていただくことです。
産業医はそこを調査したり認定する立場ではありません」
「ただし、以前と比べて明らかな行動変化があるのであれば、
健康面の評価が必要です」
「そういった視点で支援させていただきますね」
書いてしまえば当たり前のことなのですが、
この役割分担は重要です。
産業医がハラスメント認定まで担おうとすると、会社の調査判断と医学的評価が混ざってしまいます。
一方で、
「ハラスメントかどうかは会社の問題なので産業医は関係ない」
という跳ねつけてしまうような態度もまずい。
行動変化の背景に健康問題が隠れている可能性があるなら、
それは産業医が関与すべき領域です。
診断名よりも、まず仮説を整理する
この段階で病名を当てにいく必要はありません。
まずは何が起きているのかを確認し、整理することが先です。
睡眠不足や過重労働の影響かもしれません。
管理職としての能力や人格特性、
組織側の問題が関係している可能性もあります。
そして、精神疾患や身体疾患、薬剤の影響が背景にあるのかもしれません。
職場で起きる問題は、医学だけで説明できるとは限りません。
病気、能力、性格、組織要因が重なって現れていることも少なくありません。
産業医の役割は、その複雑な状況を医学的な視点から整理することです。
会社が欲しいのは「次にどう動くか」
聞いてきた人事の人が知りたいのは、
ハラスメントとか病気とかのラベルではなく、
会社として次に何をすべきかです。
たとえば、
・ハラスメント調査を進めるべきか
・本人への事情確認が必要か
・産業医面談を行うべきか
・就業上の配慮が必要か
・管理職としての職務継続が妥当か
・部下への対応をどうするか
こうした実務判断に困っています。
そのために
産業医が提供すべきなのは、
「ハラスメントです」
「精神疾患です」
という断定ではありません。
会社側のスタッフだけでは確認できない医学的な視点を提供し、
会社が次に確認すべき事項や、
見落としてはいけない健康上の論点を整理することです。
まず確認したいこと
私が今回の相談を受けて確認しようと思ったことは、
次のようなことになります。
本当に変化しているのか
・いつ頃から変わったのか
・どのような変化なのか
・誰がそれを認識しているのか
・最近だけのことなのか、継続しているのか。繰り返しているのか。
ざっくりといえば、
「行動変化が事実として存在するのかどうか」です。
業務負荷は増えていないか
残業時間だけでは業務負荷は判断できません。
責任の増加、人員不足、トラブル対応、管理負担など、
勤務時間に表れない負荷が影響していることがあります。
睡眠の問題はないか
深夜メールが続いているので、特に重要です。
・眠れていないのか
・早朝覚醒になっているのか
・深夜まで活動が続いているのか。
そして
・疲労感はあるのか
本人に自覚はあるか
精神疾患を疑う上で重要なのは、
・本人自身が変化を自覚しているのか
・それとも周囲だけが問題視しているのか
です。
ここはその後の対応にも影響してきます。
周囲への影響はどうか
本人の健康状態だけでなく、職場への影響も確認します。
・部下は萎縮してしまっているのか
・業務にどのていど支障が出ているのか
・退職や休職などにつながるような大きな懸念があるのか
言えることと言えないこと
この段階で言えるのは、
「行動変化があり、健康面の評価を検討すべきである」
ということです。
ハラスメントである
精神疾患である
管理職不適格である
懲戒が必要である
といったわかりやすい断定をいきなりする産業医もいないとは思いますが、
「産業医の仕事は、断定することよりも、まず整理すること」
です。
健康問題とハラスメントは別の論点である
ただ一つ注意したいのは、
健康問題があればハラスメントではなくなるわけではない、
ということです。
健康状態の評価と、ハラスメント該当性の判断は別の問題です。
仮に健康問題が背景にあったとしても、
・本人への健康面の対応
・被害を訴える従業員への対応
・職場環境の安全確保
・ハラスメント調査の必要性
は、それぞれ別に考えなければなりません。
「病気だから仕方ない」
あるいは
「ハラスメントだから健康問題は関係ない」
では、そのあとの働きやすい職場づくりや、
治療と仕事の両立支援に取り返しのつかない悪影響となりかねません。
だって実際の職場では、
その両方が同時に存在することがありますから。
今回の会社への助言
今回、私は会社には次のように伝えました。
「ハラスメント該当性の判断は会社として整理してください。
一方で、行動に変化があるのであれば、健康面の評価は必要です。
まずは変化の経過や業務負荷、睡眠状況などを確認しましょう。
そのうえで必要がありそうであれば、産業医面談を予定しましょう」
産業医の役割は、会社の判断を代行することではありません。
健康面を含めて状況を整理し、
会社が次の判断を行える状態をつくることにあります。
まず考えるのは、
「現場で何が起きているのか」
そこから
個人の健康への対処や、
職場としてできる手立てを探していきましょう。
アンドモアー
産業医はハラスメント窓口じゃない?
でもそんなの当たり前じゃん。
なんで人事の人ってそんなの相談してくるんだろう?
産業医としては、そう思うかもしれません。
でも、そういったよろず相談をしてもらえるのは、
「コイツは使えるのか?」と試されているか、
「この人に相談すれば現実的な解決につなげてもらえるのではないか」
そう信頼してもらえている証。
なはず。。。
”先生稼業”なんて、お座敷がかかってナンボですからねー
この項ここまで。
