前回まで、
メンタル不調からの復職の事例に対して、
そんな時に産業医がどうしたら良かったと思うのか、
そのことについてつらつらと書いてきた。
従業員はまだ回復が不十分な状態なのに「復職希望!」と診断書を持ってきた。
従業員の回復不十分な病状もあり、
面接を繰り返しても事態は思うようにいかず、
「産業医の対応に傷ついた!」と事態がこじれてしまう。
そんな事例。
でもその状況には、まだもう一人医師がいる。
もうひとりのこの状況を作ってしまった責任者、
それは精神科の主治医。
そりゃやっぱり、どうしても精神科医に対しては私の視線は厳しくなる。
実際に対応してみると、
ないものねだりであったり、
その患者とその状況では仕方がない、ということも多いのだけれど、
それでも”精神科主治医はどうしたら良かったと思うのか”、
のアナザーサイドストーリーを書いておきたい。
復職に際してのゴタゴタあるある
今回の事例とはちょっと違うかもしれないけれど、
休職期間満了となってしまうギリギリになって、
「復職可能」といきなり診断書が出てくる。
事前にそろそろ戻れそう、とかの情報も不十分なままに、
長く休んでいたものを戻そうとしたら、それはゴタゴタするに決まっている。
ゴタゴタする、ということは、患者さんに負荷がかかるということ。
復職しようというのだから、負荷はかかるに決まっているのだけれど、
避けられる負荷であれば、それを避けたり減らしたりして、
患者さんが順調に回復コースに乗れるように整えるのは、
当然、主治医の仕事。
いきなり”復職可能”の診断書は下策
まず大前提
「いきなり”復職可能”の診断書から復職のアプローチを始めない」
患者さんはいきなり復職できるほどに良くなるわけはない。
徐々に良くなっていくもの。
そして、「復職しよう」というハードルは、
回復の手前の病状再燃を招く、最後の大きなハードル。
そのハードルを越えるためには、しっかり準備して臨む必要がある。
まず必要なのは、復職までの道のりと、復職してからの過ごし方、
全体のイメージを患者さんと主治医とで共有すること。
休職が始まった当初にはまだ負担が強いだろう。
でも休職当初の強い精神症状が収まって、
だんだんと次の過ごし方を考える回復期に入ってきたら、
”回復したら、どのように復職していくのか”について話す段階がくる。
まずは情報収集という名のチラ見せ
まず必要なのは、情報収集
何としても必要なのは、”休職可能期間はいつまでなのか”。
といって、これについては休職初めに調べていることも多い。
いつまで休めるか、の目安がないと十分に安心して休めないものだから。
次に復職するための道筋を考えるうえで必要なのは、
”その会社が「復職OK」とする条件はどうなっているのか”
それを、従業員である患者さん本人に問い合わせてもらう。
つまり患者さんから、会社や上司さんに、
「だいぶ良くなってきたので、そろそろ復職したいと思うんですけど」
と問い合わせてもらう。
会社によって復職のルールは全く違うし、
そのルールがどれくらい厳格に適用されているのか、
復職にどれくらい慣れているのかも全く違うので、
まず探る必要がある。
会社からすれば、
これによって「いきなり復職希望キタ!」となることが防げるし、
上司さん、そして会社に「回復しているんだな」と知ってもらい、
復職受け入れの準備を始めるように促すことになる、はず。
本人のために、全体を整える
会社の準備が整えば、
より本人の復職はソフトランディングできるようになる。
そんな、場面全体を見据えてのアプローチを取れていくこと、
それが患者さんの人生全体を見据えた精神科治療ということになるのだと思うのです。
続きます。