労働者の健康を守るうえで欠かせない「産業医」ですが、実際に選任義務があるのに契約していない企業も少なくありません。「契約しないとどうなるのか?罰則はあるのか?」という疑問は、経営者や人事担当者から多く寄せられます。ここでは、産業医の立場から、法的義務や罰則、そして企業が陥りがちな誤解についてわかりやすく解説します。
産業医と契約していない場合、罰則があります
労働安全衛生法により、一定規模以上の事業場では産業医の選任が義務付けられており、これを怠った場合は罰則の対象となります。
産業医選任の法的義務とその根拠
労働者50人以上の事業場では選任義務がある
労働安全衛生法第13条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、産業医を選任しなければなりません。これは、業種に関係なくすべての業種に適用されます。
選任しない場合の罰則内容
産業医を選任しなかった場合、労働安全衛生法第119条に基づき、「50万円以下の罰金」が科される可能性があります。また、労働基準監督署から是正勧告を受け、改善されない場合は送検の対象になることもあります。
届け出義務と違反時のリスク
産業医を選任した際には、選任報告書を所轄の労働基準監督署へ提出する必要があります。報告を怠った場合も、行政指導や罰則の対象となる可能性があります。
よくある誤解と注意点
「嘱託産業医なら義務ではない」は誤解
嘱託産業医(非常勤)であっても、選任義務があることには変わりありません。「専属でないから選任不要」と考えるのは誤りです。
複数の事業場で合算50人でも対象になるケース
それぞれの事業場で50人を下回っていても、実態として一体運営されている場合などは、労基署の判断で「一つの事業場」とみなされ、選任義務が発生することがあります。
実務上の注意点
契約していても「名ばかり産業医」では不十分
形式的に契約していても、実際に職場巡視や面談、衛生委員会への参加が行われていない場合は、実質的に選任していないとみなされる可能性があります。実務が伴っているかが重要です。
産業医の選任時期にも注意
従業員が50人に達した時点で、遅滞なく産業医を選任する必要があります。「年度内に選任すればよい」といった考えは認められていません。
専門家として産業医ができる支援
企業への制度設計支援
産業医は、企業の規模や業態に応じた衛生管理体制の構築を支援します。労働者の健康リスクを早期に把握し、未然に防ぐ仕組みづくりを行います。
労基署対応のアドバイス
是正勧告を受けた場合の対応や、産業医選任報告書の書き方、提出手続きに関する具体的なサポートも可能です。行政対応に慣れていない企業にとって大きな安心材料になります。
社員面談や職場改善の実施
メンタル不調者への面談や復職支援、過重労働の把握と是正、ハラスメントの予防など、現場に即した具体的な対応を行います。
まとめ:産業医の選任は法的義務。未契約には罰則リスクも
産業医の選任は、単なる形式ではなく、企業が労働者の健康を守るために果たすべき重要な法的義務です。選任していない場合には、罰金だけでなく企業の社会的信用にも関わる重大なリスクとなります。もし選任義務の有無に迷った場合や、実務に不安がある場合は、早めに専門家へ相談しましょう。
