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労働者の健康情報の取扱いに関する法的留意点とは?産業医が解説する実務上の注意点

企業が従業員の健康を守るために実施する健康診断やストレスチェック。その中で得られる「労働者の健康情報」は、個人のプライバシーに深く関わる情報であり、厳格な管理が法律上求められています。とりわけ産業医は、医療専門職としての立場から、医学的判断と法的配慮のバランスを取りながら、これらの情報を適切に扱うことが求められます。本記事では、産業医の視点から「労働者の健康情報」の法的取扱いについて解説します。

労働者の健康情報とは何か

労働者の健康情報とは、健康診断の結果、医師の意見書、ストレスチェックのデータ、治療に関する申告内容など、健康状態に関するあらゆる情報を指します。これらは個人情報保護法において「要配慮個人情報」とされ、特に慎重な取扱いが求められます。企業がこれらの情報を取得・利用するには、原則として本人の明確な同意が必要です。産業医もまた、同意の有無や情報の必要性を踏まえた上で、適切な運用を行う必要があります。

法的に求められる健康情報の管理体制

労働者の健康情報は、企業が保有する中でも最も機微性の高い情報に該当し、漏洩や不適切な利用は大きな法的リスクを伴います。個人情報保護法に則り、アクセス権の制限、記録媒体の管理、情報の暗号化など、安全管理措置が求められます。産業医は、こうした管理体制の整備において、情報の機微性と活用の必要性を天秤にかけながら、実務上のアドバイスを行う役割を担います。

産業医の守秘義務と情報提供の限界

産業医は医師である以上、医師法に基づき守秘義務を負っています。このため、診療や面談等を通じて知り得た健康情報を、本人の同意なく他者に伝えることは原則としてできません。たとえば、人事部から「Aさんは復職可能か」と聞かれたとしても、本人の同意がない限り詳細な健康状態を共有することはできません。情報提供が必要な場合には、本人に事前に説明し、文書または口頭で同意を得ることが実務上の基本です。

健康情報の共有における注意点

健康情報を共有する際は、「何を」「誰に」「どの範囲まで」伝えるかを明確にし、最小限の情報にとどめることが大切です。たとえば、「就業制限が必要」「短時間勤務が望ましい」といった業務上必要な情報に限定し、診断名や病歴などの詳細は伏せるといった配慮が必要です。産業医は、企業と労働者双方の信頼を損なわないよう、中立的な立場で判断を下す責任があります。

現場での対応と記録管理の実務

産業医が面談や意見書作成を行う際は、記録の保管方法にも注意が必要です。紙媒体であれば施錠された保管庫に保存し、電子媒体であればパスワードやアクセス制限を設けるなど、情報漏洩対策が求められます。また、面談内容や意見提供の履歴も、後日のトラブル防止のために一定期間記録しておくことが推奨されます。これにより、労働者の信頼を確保しつつ、企業のリスク管理にも貢献できます。

まとめ:産業医の適切な関与が信頼と安全を守る

労働者の健康情報の取扱いは、法律だけでなく倫理的にも高い水準が求められる領域です。産業医は、医学的専門性と法的配慮の両立を図りながら、適切な判断と行動をとることが求められます。本人の同意を尊重し、必要最小限の情報提供にとどめる姿勢を貫くことが、従業員からの信頼を築き、企業全体のリスクマネジメントにもつながります。制度だけに頼らず、日常的な運用の中での配慮が極めて重要です。