嘱託産業医が担う重要な業務の一つに「職場巡視」があります。これは、労働者の健康保持・増進と職場の安全衛生環境の確保を目的として、実際の作業現場を定期的に見て回る活動です。労働安全衛生法により、少なくとも月に1回の職場巡視が求められており、企業規模や業種にかかわらず義務となっています。
なぜ職場巡視が必要なのか
産業医がデスクの上で書類だけを見ていても、現場のリスクや労働環境の問題は見えてきません。職場巡視を通じて、以下のような課題を直接確認することができます:
- 作業環境(騒音、照明、換気、温湿度など)の適正性
- 作業姿勢や動作による身体負荷の有無
- 安全管理の不備(危険箇所の放置、標識の未整備など)
- ストレス要因になり得る人間関係や職場の雰囲気
また、現場の従業員と直接コミュニケーションを取ることで、潜在的な健康リスクやメンタルヘルスの兆候も把握しやすくなります。
職場巡視の具体的な進め方
嘱託産業医が巡視を行う際には、以下の流れを踏むのが一般的です:
- 産業保健スタッフ(衛生管理者、安全管理者など)との事前打合せ
- 重点チェック項目の確認(前回の指摘事項、労災発生状況など)
- 実地巡視(該当部署や現場を歩きながら観察)
- 労働者との会話・ヒアリング
- 巡視結果の記録と報告書作成
- 改善提案と次回巡視へのフィードバック
重要なのは、単に「見る」だけではなく、「改善につなげる」視点で巡視することです。
職場巡視で気をつけるべきポイント
嘱託産業医が巡視時に注意すべき点として、以下のようなものがあります:
- 偏った視点にならないよう、複数の職場・部署を定期的に巡視する
- 労働者が委縮しないよう、フレンドリーで開かれた姿勢で接する
- 衛生・安全の両面に加え、メンタル面への配慮も忘れない
- 記録は客観的かつ具体的に残し、関係者と共有する
職場巡視は産業医の信頼を高める機会でもある
職場巡視は、単なる法的義務ではなく、産業医としての信頼を築く大切な業務です。現場に足を運ぶことで、労働者や管理職からの信頼を得やすくなり、相談や助言がしやすい関係性が生まれます。また、健康障害の予防だけでなく、快適な職場づくりや生産性の向上にも寄与するため、嘱託産業医として積極的な関与が期待されます。