従業員数が50人を超えると、労働安全衛生法に基づき「産業医」の選任が義務づけられます。中小企業では、常勤の産業医ではなく「嘱託産業医」と契約するケースが一般的です。しかし、いざ契約しようとすると「どんな書類が必要?」「どのタイミングで何を出せばいい?」と戸惑う企業担当者も少なくありません。この記事では、産業医自身の視点から、嘱託産業医との契約に必要な書類と手続きの流れについてわかりやすく解説します。
結論:契約書と選任報告書が基本的な必須書類
嘱託産業医と契約する際、企業が準備すべき基本書類は主に以下の2点です:
- 産業医契約書(嘱託契約書)
- 産業医選任報告書(様式第2号)
これらを整備・提出することで、法的に適切な産業医選任手続きが完了します。
産業医契約に必要な書類と手続きの流れ
1. 嘱託契約書(産業医契約書)
産業医と企業が交わす正式な契約書です。契約期間、業務内容、訪問頻度、報酬などを明記します。書式は法定ではなく、両者の合意に基づいて作成します。
2. 産業医選任報告書
労働基準監督署に提出する書類で、正式名称は「産業医選任報告書(様式第2号)」です。産業医を選任した日から14日以内に、事業場を管轄する労基署に提出する必要があります。
3. 医師免許証の写し(場合による)
一部の労働基準監督署では、産業医の医師免許証のコピーや産業医研修修了証の写しを求められることがあります。事前に所轄労基署へ確認しておくと安心です。
4. 業務委託の稟議書・社内決裁書(企業内資料)
企業によっては、社内の決裁手続きに必要な書類(稟議書、契約承認書など)も必要となります。
よくある誤解とトラブル
「とりあえず契約してから報告すればいい」と思って、選任報告書の提出が遅れる企業がありますが、これは法令違反です。選任日=契約日と考え、報告書は遅滞なく提出しましょう。また、「産業医との口頭契約だけで十分」と判断するのもNGです。報酬や業務内容の認識ズレが後のトラブルに発展する恐れがあります。
実務上の注意点
訪問スケジュールのすり合わせ
契約前に、月1回以上の定期訪問スケジュールや衛生委員会出席などの実施日を明確にしておきましょう。特に多忙な医師とのスケジュール調整は早めが肝心です。
秘密保持の取り決め
従業員の健康情報を取り扱うため、契約書に「守秘義務」や「個人情報の取り扱い」に関する条項を明記しておくのが望ましいです。
契約更新の管理
契約期間終了時に自動更新されるか、再契約が必要かなど、契約の更新条件も明記し、社内で管理しましょう。
産業医から見た企業へのアドバイス
嘱託産業医として企業と関わる際、スムーズな連携のためには、担当者の労務・安全衛生に関する基礎知識が重要です。また、衛生委員会の運営やストレスチェック後の面談体制が整っていると、実効性の高い職場環境改善が可能になります。
企業側が「産業医を雇ったから安心」と受け身になるのではなく、実際の健康管理活動に活かすための意識と仕組みづくりを行うことが重要です。
まとめ
嘱託産業医との契約に必要な書類は、「契約書」と「産業医選任報告書」が基本です。これに加え、管轄労基署の求めに応じて医師免許証の写しなどを準備しましょう。企業が法的義務を果たすだけでなく、職場の健康管理を実効性あるものにするには、実務上の連携体制や情報共有も不可欠です。産業医を単なる「形式的な選任」で終わらせず、積極的に職場改善に活用していきましょう。