双極性障害(躁うつ病)は、気分が高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。個人の生活だけでなく、職場でのパフォーマンスや人間関係にも影響を及ぼすため、早期の理解と適切な対応が重要です。産業医は、働く人が安心して職場に適応できるよう支援する立場から、この疾患に関する正しい知識を持ち、職場環境の改善や復職支援に携わっています。
双極性障害の定義と特徴
双極性障害は、気分の振れ幅が大きく、躁状態では活動的・衝動的になり、うつ状態では意欲の低下や絶望感が強くなります。これらの状態は数週間から数か月続くことがあり、周囲から「気分屋」や「怠けている」と誤解されやすい点が特徴です。職場では業務の波が激しくなり、周囲との調整が難しくなることもあります。産業医は、この疾患の特徴を踏まえ、勤務状況や生活リズムを整える助言を行い、職場内での理解促進を図ります。
職場における影響と課題
双極性障害を抱える従業員は、うつ状態では欠勤や遅刻が増える一方、躁状態では過剰に業務を引き受けてしまうことがあります。その結果、組織全体の業務効率に影響が出る可能性があります。また、躁状態では対人関係の摩擦を引き起こすこともあり、長期的に見て職場の人間関係やメンタルヘルス全体に影響が広がります。産業医は、従業員と上司の間に立ち、適切な勤務調整や休養の必要性を伝える役割を担います。
治療と支援の基本
双極性障害の治療は、薬物療法と心理社会的支援の両輪で行われます。気分安定薬や抗精神病薬を用いた薬物療法に加え、生活習慣の安定化や認知行動療法などが有効です。産業医は、治療方針そのものを決定する立場ではありませんが、主治医との情報共有や職場での支援体制づくりに関与します。例えば、勤務時間の調整やリモートワークの導入など、柔軟な働き方を提案することが重要です。
職場復帰と再発予防のポイント
双極性障害は再発率が高いため、復職後も安定した勤務を継続するには細やかな支援が必要です。復職プログラムの導入や段階的な勤務再開は有効な手段です。また、本人が自分の体調変化に気づきやすくするセルフモニタリングの習慣化も大切です。産業医は、本人・上司・人事との連携を図り、過剰な負担を避けつつ再発予防策を実行できるように調整を行います。
周囲の理解と職場環境の整備
双極性障害を持つ従業員にとって、周囲の理解は非常に大きな支えとなります。無理解や偏見があると、孤立感が強まり症状悪化につながる恐れがあります。職場内でのメンタルヘルス研修や啓発活動は、病気への理解を深める効果があります。産業医は、個人の健康だけでなく組織全体の働きやすさを意識し、メンタルヘルスに配慮した職場づくりを推進します。
まとめ
双極性障害は、職場においても無視できない影響を与える疾患です。正しい理解と適切な支援があれば、安定した就労を継続することは十分可能です。産業医は、その橋渡し役として従業員と職場をつなぎ、働く人が自分らしく活躍できる環境を整えることに貢献します。職場で双極性障害に関する課題を感じた場合は、産業医や主治医と連携しながら無理のない対応を進めることが大切です。