ギャンブル障害は、日常生活や仕事に深刻な影響を及ぼす可能性がある依存症の一つです。近年、カジノやオンラインゲーム、パチンコなど多様なギャンブル形態が身近になったことで、問題が顕在化しやすくなっています。産業医としては、従業員の健康管理だけでなく、メンタルヘルス不調の背景にギャンブル障害が隠れている可能性を見逃さないことが重要です。
ギャンブル障害の定義と特徴
ギャンブル障害は、DSM-5(米国精神医学会の診断基準)において「病的賭博」として分類される依存症です。ギャンブルによって高揚感を得るために頻度や金額が増え、生活費や借金に影響し、最終的には職場や家庭で深刻な問題を引き起こします。特徴的なのは「やめたいと思ってもやめられない」というコントロールの喪失で、アルコール依存症など他の嗜癖と共通点を持ちます。
職場で見られるサインとリスク
産業医の立場から特に注目すべきは、職場に現れる行動上のサインです。例えば、遅刻や欠勤の増加、金銭トラブルによる同僚とのトラブル、業務中の集中力低下などがあります。また、ギャンブル障害が進行すると、借金を隠すために横領や不正に発展するケースも報告されています。こうした状況は本人だけでなく、組織全体に大きなリスクをもたらすため、早期の発見と対応が欠かせません。
産業医による早期発見のアプローチ
定期健康診断やストレスチェックの面談時に、生活習慣や金銭に関するさりげない質問をすることで、問題の兆候を把握できる場合があります。本人が問題を認識していない場合も多いため、否定せずに耳を傾ける姿勢が重要です。また、産業医は職場環境の中での変化に敏感に対応し、必要に応じて専門医療機関への受診を勧める役割を担います。
治療と支援の方法
ギャンブル障害の治療は、認知行動療法や集団療法など心理社会的アプローチが中心です。薬物療法が補助的に使われることもあります。産業医は直接治療を行うわけではありませんが、適切な医療機関や自助グループにつなぐ役割を担います。また、職場復帰や再発予防の観点から、勤務時間や業務量の調整を検討することも必要です。
職場全体での予防と啓発の重要性
ギャンブル障害は「本人の弱さ」と片付けられがちですが、実際には誰もが陥る可能性のある病気です。そのため、職場でのメンタルヘルス研修において依存症に関する理解を深めることが効果的です。従業員が安心して相談できる体制を整え、問題が顕在化する前に支援できる仕組みを作ることが、組織のリスク管理にもつながります。
まとめ
ギャンブル障害は、本人の生活や職場に深刻な影響を与える依存症です。産業医の役割は、早期発見と適切な専門機関への橋渡し、そして職場環境における再発予防のサポートにあります。従業員や企業にとって大きなリスクとなり得るため、予防と支援の体制を整えておくことが不可欠です。気になる兆候が見られた際は、早めに産業医や専門機関へ相談することを強くおすすめします。