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「職場の発達障害」 「発達障害」の特性をもつ大人にどう対応するのか その1

世のトピックである「発達障害」、とりわけ「職場の発達障害」について、
私が精神科産業医として、発達障害を疑われる従業員に関わるときの基本姿勢について書いてみます。
 
|職場の発達障害に出会う時|
職場の発達障害、ということは、対象者は間違いなく成人です。
ほぼすべての方が、これまで発達障害と診断されてこなかった人です。
そして職場の発達障害、なのでほとんどの方が他の人と同じように仕事ができない、といったことをきっかけに産業医は出会います。
自分から困って支援を求めて産業医の下にくる方もいますが、間違いなくその上司も対応に困っています。
私が出会うのは、本人は困り感はさほどなく、上司だけがひどく困っている、という状況である場合も多いです。
 

|そもそも論。「発達障害」ってなんなのさ|
「発達障害」は生来の脳の特徴から来る、行動上の特性です。
狭義の精神疾患のような、「病気によって症状が出現し、服薬などの治療をすれば改善する」ものではありません。
発達障害は先天的な脳の特性による、認知などの特性であり、実生活上はその人の言動の特性であり、その特性による生活上の障害を「発達障害」として診断するわけです。
「特性」という言葉がわかりにくいですが、言い換えれば、パターンであり、習性であり、癖であり、特徴です。
 
|脳から来る特性ってなに?|
発達障害とは脳から来る特性である、と書きました。
脳の生来的な特性の違いによる私たちに最も身近な例えは、右利きか左利きかの、利き手の違いです。
右利きと左利きとでどちらが多いでしょうか?ご存知の通り右利きです。
それによって何が起きるかと言うと、世の中のさまざまの物の配置や仕様は多数派である右利きに向けて整理/設計/配置されています。
例えば書字について考えてみれば、多くの言語で文字は右手で書くようにできていますし、代表的な書字の道具であるボールペンは右手で引きながら書くようにできていて、左手で押しながら書くとペン先がインクで詰まってしまいます。
すると、少数派である左利きの立場からすると、様々な道具の使いやすさ、日常生活の過ごしやすさにハンディキャップが生まれます。
では、左利きは右利きに比べて劣っているのでしょうか?
もちろんそんなことはありません。
左利きは少数派であることにより、有利に働く場面があります。サッカー、野球、ボクシングなどのスポーツはその代表例でしょう。
 
|まずは「気づく」こと、それから工夫|
世の中の作りが少数派である左利きの人向きに作られていないのは事実ですが、
では、左利きの人がその不利を補うためにまず最初に必要な事は何でしょう?
それは、「自分は左利きなのだ」と認識することです。
 
きっかけは自分で気づくのでも、他者から教わるのでも構いません。
その認識から、「自分は左利きだから右利き用の世の中で生きていくためには工夫が必要なんだ」と納得して、自分で自分にあった工夫を試行錯誤することです。
それはノートを傾けて書くような筆記用具の使い方であったり、左利き用の鋏を使うことであったり、文字を書くときとボール投げで手を使い分けることであったり、その人に合う方法は様々だと思います。
 
|「発達障害」は治る/治すものではない|
左利きの人が「治す」対象ではないのと同じように、「発達障害」も「治す」ものではありません。「工夫する」ものです。
 
発達障害で困ってしまっている人は、「自分が左利きだと気づいていない左利きの人、気づいていたとしてもそれに合わせた工夫や対策が足りていない状況にある人」に例えられるかもしれません。
まずは、「自分にはこんな特徴/特性がある」「これは自分の特性だから、どうにか工夫していこう」と思ってもらうこと、それが発達障害の方への支援のスタート地点です。
 
今日はここまで
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