おおた産業メンタルラボ

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使わない言葉 「安定剤」 その1

世の人々は「安定剤」がお好きなようです。
初診の外来で「安定剤を出してもらいたい」「安定剤を飲んでいる」と何度聞いたことやら。
 
「安定剤」とは何でしょう?
「精神安定剤」でGoogle先生に訊いてみると、でるわでるわ。
“抗不安薬(精神安定剤)の効果と~”とか。
“抗不安薬とは、いわゆる「精神安定剤」のことであり~”とか。
 

Wikipediaで引いてみても
“精神安定剤(Tranquilizer)は、現代的な呼び方では抗不安薬に相当する向精神薬の一種である。当初トランキライザーの語が精神障害に有効な薬を指して使われ、1958年には静穏剤の訳語も紹介された。1960年代にベンゾジアゼピン系の薬剤が登場しトランキライザーと呼ばれるようになり、次第に神経症の不安に有効なものをマイナートランキライザー、抗精神病作用のある薬をメジャートランキライザーと呼ぶようになった。”(引用終わり)
 

「(精神)安定剤」イコール「抗不安薬」?
「精神安定剤とは抗不安薬のことです」とか書いてお墨付きを与えている精神科クリニックもありますが、全然だめです。
一般の方が「安定剤」というのは仕方ないとしても、精神科医として言葉の使い方に無神経が過ぎる。
なぜって、その「抗不安薬」はちっとも安定(なにが?)する薬ではないからです。
 
「抗不安薬」とは
抗不安薬は、文字通り不安という感覚に対応するために処方される薬です。
日本で処方される「抗不安薬」は現状、ほとんどがベンゾジアゼピン系抗不安薬(以下BZD系)です。
BZD系ではないタンドスピロンという、セロトニン系の抗不安薬もありますが、
これを処方されている患者さんに出会ったことはほぼありません。
 
このBZD系薬剤は何が問題なのかと言うと、
そもそもの作用機序からして、BZD系薬剤は脳を安定させるどころか、不安定にする薬だからです。
BZD系薬剤は血液によって脳に運ばれ、脳のベンゾジアゼピン受容体に結合します。
これによりGABAの神経伝達を亢進させ、抗不安作用や催眠鎮静作用を期待します。
ベンゾジアゼピン受容体に結合する別の薬物として広く知られているのは、アルコールです。
接種によって前頭葉機能が抑制されることによる酩酊感を楽しむのがアルコールであり、作用機序としては全く一緒です。
酩酊して「泣き上戸や笑い上戸、怒り上戸」になったり、悪酔いして人が変わったようになる人物を皆さんも知っていると思います。
そしてアルコールは身体依存や精神依存を引き起こします。
BZD系薬剤によっても同様の事が起こるのです。
 
以前にメンタルヘルスに対するアルコールの害について書きましたが、BZD系薬剤も同じことを起こします。
具体的には睡眠状況の悪化、判断力の低下、自己回復力の低下です。
いえ、本人は治療薬だと思って飲んでいるのですから、むしろ害は大きくなります。
BZD系薬剤には、「うつ」などを悪化させたり、処方薬依存症(実質BZD系薬剤依存症)にさせたりする大きなリスクがあります。
 
 
「(精神)安定剤」どころか「不安定にする薬」なのですからびっくりです。
これが、BZD系薬剤が中心の「抗不安薬」を「(精神)安定剤」なんて呼ばない方が良い、私が「安定剤」という言葉を絶対に使わない理由です。
BZD系薬剤の害については次回に続きます。