おおた産業メンタルラボ

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若者問題を“世代論”で片付けないために|その2:経験を積んだ側に残っているものの正体―「不確実な状況で動ける力」はどこから来るのか―

前回は、「優秀なはずの若者が現場で止まる理由」を、
能力ではなく「適応のズレ」という構造から整理しました。

では逆に、現場で動けている人は、何が違うのでしょうか。

この問いを「経験があるから」と片付けてしまうと、
あまり意味のある説明にはなりません。

重要なのは、
その“経験の中身”です。

まず前提として押さえておくべきことがあります。

それは、
不確実な状況に対する不安は、
若者も、経験を積んだ側も、本質的には同じだということです。

AI化が進み、予測可能な領域が機械に置き換わっていく中で、
「この先どうなるのか分からない」という感覚は、
どの世代にとっても共通です。

違いがあるとすれば、
その不安との付き合い方です。

経験を積んだ側には、
若者にはまだ持ちにくい特徴があります。

それは、
・ほどよい諦め
・鈍感でいられる力
・自分や世界に対する過度な期待を手放す感覚
といったものです。

一見するとネガティブに見えるこれらは、
現場においてはむしろ重要な機能を果たします。

これらを一言でまとめると、
「不確実性に対する主観的な許容幅」
と言い換えることができます。

現場では、常に正解が用意されているわけではありません。
・情報が足りないまま判断しなければならない
・やってみないと分からない
・やった後も正しかったか確定できない
こうした状況が、日常的に発生します。

このとき必要になるのは、
正確な答えを出す力ではなく、
「この程度で一度進める」
という判断を下せる力です。

ここに、「いい塩梅」という感覚が関わってきます。
・完璧ではないが、進める
・無意味ではないが、過剰でもない
・厳しすぎず、甘すぎない

こうした中間点を取る力は、
マニュアルや知識だけでは身につきません。

試行錯誤や失敗を経て、
徐々に獲得されていくものです。

一方で、若者の側には別の合理性があります。

それは、
「それは何の意味があるのか」
「それは自分の仕事なのか」
といった問いを明確に持つことです。

これは決して間違いではありません。
むしろ、予測可能な環境においては、合理的な行動です。

しかし現場では、
すべての仕事に明確な意味が最初から与えられているわけではありません。

ここで重要になるのが、
「意味は後から生成されることもある」
という視点です。

経験を積んだ側は、
・とりあえずやってみる
・やりながら意味を見出す
・場合によっては意味がなくてもやる
という選択ができます。

これは思考停止ではなく、
不確実な状況における実務的な最適化です。

例えば、
「それはわたしの仕事ですか」
と問われたとき、
「そうです。誰かがやる必要があるので、あなたがやります」
と答える場面があります。

一見すると乱暴に見えますが、
現場を機能させるためには必要な判断です。

ここで求められるのは、
声の強さではなく、
「判断を引き受ける意志」
です。

同時に重要なのは、
追い詰めすぎないことです。

逃げ道のない状況は、
人を防御的にし、機能を止めます。

完全に囲い込むのではなく、
一定の余白を残す。

この「加減」もまた、
経験によってしか身につかない領域です。

もう一つ見落とされがちな点があります。

それは、
こうした判断や振る舞いの多くが、
「言語化されずに伝わっている」
ということです。

視線の配り方、
間の取り方、
仕事への向き合い方。

これらは明文化されたスキルではありませんが、
確実に現場のパフォーマンスに影響します。

近年は「言語化」が重視される傾向がありますが、
すべてを言葉で伝えることはできません。

むしろ、
「言語化できない領域をどう扱うか」
が、人間に残された重要な能力になっています。

ここで一つ、視点を変えてみる必要があります。

これらの能力は、
「現場の個人の資質」によって生まれているのでしょうか。

それとも、
「組織として意図的に設計されているもの」でしょうか。

もし前者に依存しているのであれば、
それは再現性のない“属人化された強さ”です。

そして現実には、
多くの現場がこの属人性に依存しています。

まとめると、経験を積んだ側に残っている価値とは、
・不確実性を許容する幅
・完璧でなくても進める判断
・意味を後から作る力
・言語化されない領域を扱う力
といったものです。

これらは、教えられてすぐに身につくものではありません。

しかし現場においては、確実に必要とされる要素です。

そしてもし、
これらが「個人の経験」にのみ依存しているとすれば、
その組織は、偶然うまく回っているに過ぎない状態とも言えます。

次回は、これらの違いを前提に、

若者に好かれようとするな
――関係性ではなく「機能」で関わるための設計

を整理していきます。