おおた産業メンタルラボ

コラム・お知らせ

両立支援対応のリアル。

「業務軽減か、不利益取扱いか」で悩む前に。


「病気の社員の業務を軽くことは、本人には不利益取扱いになるのでしょうか」
「逆に、本人が働きたいと言っているからといって通常業務を続けさせると、安全配慮義務の問題になるのでしょうか」

顧問先企業から、こうした相談を受けた時。

たしかに、どちらも大事な論点です。
会社としては、本人の希望を無視するわけにはいきません。
一方で、無理をさせて体調が悪化してしまえば、
安全配慮義務の問題になってしまうかもしれません。

でも、
・業務を軽くするのか。
・それとも、重要な仕事を続けてもらうのか。
この二択だけで考えると、対応を間違えやすくなります。

治療を続けながら働く社員については、
・その人の体調を守ることと、
・会社の中でその人の経験や能力をどう活かすかを、
同時に考える必要があります。

両立支援は、単に本人にやさしくする、という温情ではありません。
会社の運用として、どう無理なく回していくかという話です。

ケースの実際

※実際の内容とは改変してあります。念為。

ある企業で、重要な研究開発プロジェクトを担当している社員から、
「がんであることが分かった」
「がん治療を続けながら働きたい」という希望がありました。
この社員は、最近有給休暇を取って病院を受診していた、ということでした。

主治医の意見書には、次のような内容が書かれていました。
「就労継続は可能。
ただし、治療日と治療後数日は倦怠感に注意。
長時間労働、急な出張、夜間対応は避けることが望ましい」

本人は、
「今の仕事はなんとしてもやり遂げたい」
「できる限り今のまま仕事を続けていきたい」
「あまり気を遣われたくない」
と希望しています。

会社側としては、

・今の業務は、ぜひこの人に任せたい。
・ただ、これまでどおりの働き方を続けさせてよいのかは不安がある。
・無理をさせれば、安全配慮義務の問題になるかもしれない。
・かといって、重要な業務から外せば、本人には不利益な扱いだと受け止められるかもしれない。
・周囲の社員に負担がかかることも気になる。

どれも、会社としては自然な心配です。

ただ、この段階で「業務軽減か、不利益取扱いか」という話だけをしていても、実際の対応はなかなか決まりません。

最初に確認したこと


こういった場合、最初に見るべきなのは病名ではありません。

もちろん、医学的な情報は必要です。
ただ、職場での対応を考えるうえでは、病名よりも先に確認すべきことがあります。

その社員にしか分からない業務とは何か。
他の社員に移せる業務はどれか。
医学的に避けるべき負荷は何か。
治療の予定はどの程度見通せるのか。
周囲の業務量はどう変わるのか。

こうした点を一つずつ見ていきます。


病名だけを見ても、職場の運用は決まりません。
同じ病名でも、治療内容、体調、仕事内容、職場の体制によって、必要な対応は変わります。

大事なのは、医学的に避けるべきことと、仕事上どうしても必要なことを、きちんと突き合わせることです。

見落とされやすいこと


病気になった社員を、
配慮が必要な人としてだけ見ると、対応がかなり狭くなります。

その人は、会社にとって大事な経験や判断力を持っている人でもあります。

・特定の技術を知っている。
・顧客との関係を持っている。
・設計や研究開発の経緯を分かっている。
・プロジェクトの進め方を把握している。

そういう社員が急に働けなくなると、困るのは本人だけではありません。
会社の側にも、かなり大きな影響が出ます。

だから、両立支援は福利厚生の話ではないのです。
その人を守るためでもあり、
会社の大事な戦力、知見を損なわないためでもある。

ここを見落とすと、
「休ませるか、働かせるか」という雑な話になってしまいます。

危ない判断


実務で陥りやすいのが、極端な対応です。

一つは、「本人が働きたいと言っているから、これまでどおりでよいだろう」と考えてしまうこと。

責任感の強い人ほど、無理をします。
周囲に迷惑をかけたくない、評価を下げたくない、プロジェクトを止めたくない。
そう思って、本人が大丈夫だと言ってしまうことはあります。

でも、本人の申告だけに任せるのは危ういです。
会社として負荷を把握し、必要な調整をしていなければ、安全配慮として十分とは言いにくい場面があります。

もう一つは、安全のために、と重要な業務から一気に外してしまうこと。

これも分からなくはありません。
会社としては、本人に無理をさせたくない。
リスクを避けたい。
だから、負担の少ない業務に変えた方がよいと考える。

ただ、その判断が行き過ぎると、本人のキャリアや尊厳を傷つけます。
本人からすれば、「病気になったら中心業務から外されるのか」と感じてもおかしくありません。

そして何より、
会社にとっても、その人が持っている経験や判断を使えなくなってしまいます。

結局、本人にも会社にもだれも得をしない状況ができてしまいます。

どちらの対応も、一見すると合理的です。
でも、そんな雑な対応では、
きょう日の人手不足の世の中を生き抜いては渡ってはいけません。

実際に行った対応


このケースでまず考えたのは、
重要業務を続けられる形に変えられないか、です。
重要業務から外すかどうか、ではなく。

本人に確認すると、
これまでに受けた治療の経過の中で、
治療を受けた日と、その後数日は体調不良となり、出勤に不安があることが確認できました。

そこで、治療日とその後の予定をあらかじめ調整し、
「治療日の後の3日は、原則として在宅勤務または短時間勤務」と予定しました。
夜間対応は別の担当者に移し、急な出張などは避ける運用にしました。

そして補助担当者を置き、本人にしか分からない部分を少しずつ共有してもらいました。
業務の一部は他の社員へ移しつつ、本人が担うべきレビューや判断業務は残しました。

ここで気をつけたのは、
「体調が悪い日は在宅勤務でよい」
といった本人任せの運用にしないことです。
本人が毎回、自分で申し出る形にすると、どうしても遠慮が出ます。
忙しい時期には、言い出しにくくなります。

そこで、体調が動揺しやすい治療日と治療後の3日間は、
「原則として在宅勤務または短時間勤務」とする運用にしました。

本人の善意や我慢に頼るのではなく、
会社のルールとして先に決めておくことで、
本人も周囲も動きやすくなります。

職場に共有する内容

人事からは「職場に病名などを伝えた方が良いのか」そんな確認がありました。

このような場面で、病名や治療内容を職場に広く共有する必要はありません。
職場に必要なのは、病名ではありません。
業務上の運用です。

どのような配慮を行うのか、です。

むしろ、病名や治療の詳しい内容を広げすぎると、
個人のプライバシーの侵害になります。
周囲の理解を得ることは必要ですが、何でも共有すればよいわけではありません。

あわせて、周囲の負担にも配慮が必要です。

本人への配慮だけを決めて、増えた仕事を周囲にそのまま載せると、
別のところで不満や疲れが出ます。
それを放置すると、両立支援そのものが職場でマイナスのものとして受け止められてしまいます。

だから、両立支援の対応を考えるときは、
本人への配慮だけでなく、
周囲の業務調整、補助体制、知見の共有、見直し時期まで決めておくことが必要です。

その後


こうした配慮の結果、
この社員さんは治療を続けながら働き続けることができています。

会社側も、本人にしか分からなかった業務を少しずつ整理できているといいます。。
補助担当者が入り、将来的に休職が必要になった場合の備えもできてきました。

今のところ、本人の治療も順調であるようです。

また、この企業では、
これを機に両立支援の制度を、皆が利用できる形として立ち上げ、
従業員全員に周知する準備を進めています。
今回のケースはその先行事例となります。

まとめてみる


治療と仕事の両立支援は、単なる配慮ではありません。

会社が大事な人材を失わず、その人の力を無理のない形で活かすための運用です。

・病気の社員を重要業務から外すべきか。
・業務軽減は不利益取扱いになるのか。
・本人の希望どおりに働かせてよいのか。

どれも避けて通れない論点です。

でも、必要なのは そういった問題扱いだけではなく、

・本人が担う業務をどう残すか、
・どこを他の社員に移すか、
・周囲の負担をどうならすか、
・健康情報をどこまで共有するか、
・そしてその配慮をいつ見直していくか、
といった、
・会社の資源、人材をどう生かしていくのか、
・本人の回復をどのようにして待っていくのか、
という姿勢です。

現場で無理なく続けられる形は、
こういったところから実践されていくのだな、
と今回思ったことでした。

画像