今年はプレクーリングがアツイ!
暑い環境へ入る前に身体を冷やしておく「プレクーリング」は、
熱中症対策として有効だとされていて、
今年2026の厚生労働省の肝いりみたいです。
会場でも、
手や前腕、下肢、それから全身を氷水などにつけて冷却するアイスバス系の製品が展示されてました。
実際に身体を冷却するという点では、効果は期待できる、のでしょう。
ただ、装置として考えると、
新たな製品を購入しなくても、
クーラーボックスと氷水があれば、
比較的簡単に実施して、効果検証できそうでもあります。
それでも普及しないのは、
準備が必要であること、
手が濡れること、
準備だって実施する管理が必要になることなど、
小さな手間が意外に大きな障壁になるからでしょう。
そして、どれほどの効果があって、
熱中症予防に有効なのか。
細かくは、深部体温の低下効果がどのくらいの時間持続して、
どれくらいプレクーリングを繰り返したらいいのか。
手軽にできそうであるだけに、簡単に実行できる方法は、
かえって効果を低く見積もられやすいという面もありそう。
モトム、実証実験
どうしたら広まっていくか。
やっぱりここは実証実験じゃなかろうか。
例えば、どこかの地域で、
高校野球の試合前とか、交代のタイミングで5分間の手掌冷却を標準化し、
熱中症や体調不良がどれほど減るかを検証する。
これが実現できて、効果が報道されたりすれば、
一気に普及するかもしれません。
でもなー、試合時間短縮の流れには逆行するなー
スポンサーになるとすれば、
クーラーボックスメーカー、釣具メーカー、アウトドアメーカーあたりでしょうか。
関係者の皆さん、いかがでしょう。
Want’s You !
追記:
夏の高校野球全国大会では、
クーリングタイムの導入、首/手のひらの冷却、アイススラリーの利用など、準備されているようです。
その成果が世に出る日も近い!かな?
「冷たく感じる」と「体温が下がる」は別モノ
医師として展示を見ていて気になったのは、
冷感や清涼感と、実際の身体冷却とが
意識してかしないでか、
混同されやすいこと、混同していること。
冷たいと感じることと、
実際に身体の熱が逃げ、体温が下がることは同じではない。
メントールなどによって皮膚に冷感が生じれば、
本人は気持ちよく感じることだろう。
でも、それで深部体温が下がったり、
熱中症予防効果があるわけではない。
子どもの発熱時に、額へ冷却シートを貼る対応も見かけるけれど、
本人が快適に感じる効果はあるかもしれませんが、
体温を下げるための医療的な冷却とは区別して考える必要があって。
世界がもっと合理的になってほしい。
まあそういうこと。
気化冷却の可能性
熱中症対策をうたうのであれば、
単に涼しく感じる、ということではなく、
実際に熱を逃がす、体温の上昇を抑える、
身体を冷却するといった効果を求めないと、逆に危険。
会場でも、
単なる接触冷感や遮熱ではなく、
発汗や気化熱を利用して放熱を促進する素材を使った衣服などが並んでいました。
汗の蒸発を妨げず、効率よく放熱できるアンダーウェアなどには、
可能性を感じました。
ただし、衣類は消耗品でもあるから、
価格や流通、買い替えやすさまで含めると、
ワークマンのようなSPA大手に対抗できる製品をつくるのは簡単ではなさそう。
装置で行けば、
ミストを利用した気化冷却なども展示されていました。
気化冷却は、実際に気温も下がるし、
エアコンや大きな送風機のように、
「送る風は冷風だけれど、その裏では熱風を噴き出して、トータルでは発熱の方が多い」
といったおかしな状況も生まないので、
これからもっと注目されていっていい装置だと思います。
特に、会場の報道の目玉にも取り上げられていた、
「濡れないミスト発生器」は、
人や製品に影響を及ぼしにくいので、
普及していったら良いです。
「起きなかったこと」の証明の難しさ
あらためて熱中症対策の難しさを感じるのは、
対策そのものだけでなく、何をもって効果があったと判断するか
たとえ熱中症が起きなかったとしても、
それがどの対策の効果だったのか、
単にその日の気温が低かったのか、
作業量が少なかったのか、
個人差によるものなのか、
そういった多要素を判定することは困難です。
深部体温や皮膚温の一時的な低下を測定することはできても、
その変化が長期的に熱中症発生率、欠勤、労災、作業効率などなどに、
どの程度影響するか、
それと関連して考えることはとても困難です。
熱中症が起きなかったという成果は、
数字の上では見えにくい「暗数」になるので、
そのため企業側も、どの対策にどれだけ費用をかけるべきか判断しにくい。
といって、
安全配慮義務であったり、働きやすさであったり、そんな無視できない要素の一部になってきています。
展示会では分かりやすく見える装置も、
現場に持ち込んだ瞬間に、
費用、運用、継続性、評価方法という問題に直面します。
アイデアが生まれること、
製品になること、
現場へ普及すること。
その間には、それぞれ別の「死の谷」があるのだあ、と。
そんな最先端が、
熱中症対策の界隈には集まっているように感じました。
熱中症対策とは、職場文化
熱中症になりやすい背景には、
作業環境の暑さだけではなく、
オーバーワーク、疲労の蓄積、休憩不足、睡眠不足、体調不良などもあります。
「本人の体調管理が悪かった」
「寝不足だったのではないか」
「暑さに慣れていなかった」
といった自己責任論にも傾きやすい問題です。
暑熱順化によって暑さへの耐性が備えられることも間違いなくあり、
熱中症対策の大切な要素なのですが、
それが「根性が足りない」「準備が足りない」というような話に置き換わってしまってうこともないとは言えない。
しかも、暑い場所で働く職場は、
気張って体を張って頑張る、いわゆるマッチョな職場であることが多いのは、否定できない事実です。
頑張っている人が評価される、
これはとても大事だし、正しいことであると、
素直に思うのと同時に、
職場で、
「気分が悪い」
「少し休ませてほしい」と、
体調不良を申告できたこと、
休みたいと申し出られたこと、
助けを求められたことを評価すること。
異常を我慢した人を褒めるのではなく、
早い段階で助けを求められた人を評価する。
この文化がなければ、
どれだけ優れた設備やウェアラブル機器を導入しても、
十分に機能しません。
熱中症は、本人の体調管理だけでも、会社の設備対策だけでも防ぎきれません。
作業環境、業務量、休憩、本人のコンディション、周囲の声かけ、職場文化が重なって発生します。
助けを求めることを保証し、
助け合える文化を育てていくこと、
そんな職場文化をどう豊かにしていくのか、
そんなことも熱中症対策としてはど真ん中だと思うのです。
番外編:プラントメンテナンス展も面白かった
東京ビッグサイト西展示棟では、
「テクノフロンティア」など複数の展示会が同時開催されていました。
フィジカルAIをはじめとする新しい技術も注目されていましたが、
個人的に特に面白かったのは、プラントメンテナンス関係の展示。
図鑑の中でしか見たことがなかった橋梁点検車の実物展示などもありましたが、
既存の設備をどのように点検し、補修し、使い続けるのか。
設備の稼働を止めずに、どのタイミングでどのようにして新しい設備へ置き換えていくのか。
これまで人力と経験と気合で行ってきた作業を、どのように省力化するのか。
こうした技術は、
業務効率を高めるだけではなく、
危険作業を減らし、結果として労災を減らすことにも生かせるのではないか、そんなことを考えてワクワクさせてもらいました。
そんな安全のための改良にも取り組める産業医でいたいなあ、と。
現場に合った対策を選ぶ必要がある
猛暑対策展で感じたのは、
熱中症対策の商品や技術が急速に増えている一方、
どの対策を、どの職場で、どのように使用すべきか、
それを判断することはやはり簡単ではないということ。
設備を改修する方法もあれば、作業者本人を冷やす方法もあります。
水分や塩分を補給する方法、
身体状態をモニタリングする方法、
発生後に速やかに冷却する方法もあります。
重要なのは、涼しく感じるかどうかではなく、
実際に体温上昇を抑えられるのか。
現場で無理なく継続できるのか。
異常を検知したときに、休憩や作業中止につなげられるのか。
そして、体調不良を言い出せる職場になっているのか。
熱中症対策は、一つの製品だけで完結するものではないし、
山盛り対策製品をつぎ込んだら良いものでもない。
設備、服装、水分補給、休憩、体調管理、職場文化、
そんな職場の総合力が問われるのフロンティアが、
熱中症対策なのではないかと感じたことでした。
アンドモアー
後半は、熱中症対策から派生して、ちょっといろいろと思ったこと、でした。
しかしこの暑い夏がこのままいって、
来年になったら「酷暑対策展」になっているんだろか?
