こんなニュースから考えたこと。
テレビ朝日ニュース「精神疾患による労災認定 初の1000人超で過去最多に『上司とのトラブル』など『職場の対人関係』が要因」
精神疾患による労災認定 初の1000人超で過去最多に 「上司とのトラブル」が急増 仕事が原因で精神的な疾患を発症し、労災認定された人が2024年度初めて1000人を超え、過去最多となったことが分かりましnews.tv-asahi.co.jp
今回はその第1回
「上司が悪い」という思考停止
結論から言えば、
職場のメンタル問題を「上司が悪い」で片付けるのは、
ほぼ確実に判断ミスにつながるでしょう。
むしろ問題は、
本来“構造で扱うべきもの”を個人の責任に還元してしまう
ことにあります。
「上司とのトラブルが6割」の落とし穴
精神疾患による労災の6割以上が「上司とのトラブル」とされています。
この数字だけを見ると、「やはり上司が原因だ」と考えたくなります。
ただ、精神科産業医としての経験から言えば、この解釈はかなり危うい。
なぜなら現場で起きているのは、
「単純な加害者・被害者の構図」
ではなく、
「複数要因が絡み合った“構造的な問題”」
だからです。
教科書的にはひとくくりに「職場ストレス要因」と整理されますが、
実態はもっと泥臭いですよね。
なぜ企業は同じ失敗を繰り返すのか
興味深いのは、
「上司の資質の問題」として処理する企業ほど、同じトラブルを繰り返す
という点です。
現場ではこんなことが起きています。
上司は慎重に対応していた
↓
しかし「対応が不適切」と評価される
↓
結果、労災認定に至る
企業側の振り返りはだいたい同じです。
「本人の問題だと思っていた」
「指導の範囲内だった」
このズレがどこから来るのか。
答えはシンプル、
問題の見方を間違えているからです。
職場のメンタル問題は“グレーゾーンの塊”
職場の不調は、単一原因ではほぼ説明できません。
実際には、次のような要素が重なっています。
・精神疾患(うつ病、適応障害など)
・能力・スキルの問題
・人格特性(過敏さ、こだわりなど)
・職場環境や業務負荷
つまり、「グレーゾーンの集合体」です。
例えば、
「ミスが増えている部下」
これ一つ取っても、
うつ状態で集中力が低下している
業務量が過剰
発達特性による苦手領域
といった可能性が同時に存在する。
しかし現場では、
「指導不足」
「上司のマネジメントの問題」
のように単純化されがちです。
これはいわば、
立体物を無理やり平面に押し潰しているような状態ですね。
「上司が加害者」になると、現場は止まる
この単純化が起きると、現場では何が起きるか。
上司は“加害者”扱いされる
↓
指導が萎縮する
↓
周囲も関与を避ける
そして、
誰も問題に触れなくなる。。。
これは臨床でいうところの「回避行動」に近いでしょうね。
ただし当然ながら、
問題は消えず、
むしろ静かに進行する
そして最終的に、
休職
労災申請
トラブルの表面化
といった形で一気に噴き出します。
手遅れになる企業の共通点
問題が表面化した時、きまってこういった言葉が出ます。
「なぜもっと早く対応できなかったのか」
しかし実際には、
気づいていなかったわけではない。
問題はその後です。
典型的には、こうなっています。
・対応に一貫性がない
・記録が残っていない
・医学的視点が入っていない
この状態で労災申請に進むと、どうなるか。
行政が介入し、
第三者評価が入り、
企業の主張は通りにくくなる
そして場合によっては、
訴訟
SNS拡散
採用への悪影響
などと、経営リスクに直結するでしょうね。
本当の問題は「初動の見誤り」
ここで重要なのは、
問題が深刻化したこと自体ではない
という点です。
本質的な問題は、
「構造を誤認したまま初動対応をしてしまったこと」
にあります。
『論語』子路篇にある「必也正名乎(必ずや名を正すか)」
<名と実が一致しているか>
「名を正す」ことができていない状態ですね。
名前(=問題の本質)がズレると、すべてがズレます。
必要なのは「見抜く力」ではない
ではどうすればいいのか。
多くの企業ではこう振り返ります。
「もっと早く気づければよかった」
ですが、これは半分正しくて半分間違い。
重要なのは、
見抜くことではなく、
構造的に捉えること
そして、
・適切に切り分ける
・必要な段階で専門家につなぐ
この2点です。
ただし、これは簡単ではありません。
・指導と配慮の境界
・能力か医学かの判断
・介入タイミング
どれも後から振り返っても曖昧です。
だからこそ、
「誰が悪いか」ではなく、
「この問題は何で構成されているか」
の視点が不可欠でしょう。
まとめと次回予告
・「上司が悪い」という理解は危険
・職場のメンタル問題は構造的なもの
・個人責任に還元すると現場は停止する
・初動の見誤りが最大のリスクになる
・必要なのは構造的理解と適切な切り分け
次回は、この問題がなぜここまで複雑化するのか。
「病気・能力・人格・組織」という4つの視点から、
もう一段分解していきます。
