テレビ朝日ニュース「精神疾患による労災認定 初の1000人超で過去最多に『上司とのトラブル』など『職場の対人関係』が要因」
精神疾患による労災認定 初の1000人超で過去最多に 「上司とのトラブル」が急増 仕事が原因で精神的な疾患を発症し、労災認定された人が2024年度初めて1000人を超え、過去最多となったことが分かりましnews.tv-asahi.co.jp
から考えた、その第2回
なぜ問題は「上司の責任」に収束するのか
結論から言えば、
職場のメンタル問題が複雑に見えるのは、
問題そのものが難しいからではありません。
構造として理解されていないから、単純化されてしまうのです。
その結果、最終的に「上司の責任」という分かりやすい形に収束していく。
これは現場で非常によく見るパターンでしょうね。
職場の問題は4つの要素でできている
まず前提として押さえておくべきなのは、
職場のメンタル問題は単一原因では説明できないという点です。
実際には、次の4つが絡み合っています。
- 病気(うつ病、適応障害など)
- 能力(スキル、処理能力)
- 人格特性(こだわり、過敏さ、柔軟性)
- 組織要因(業務量、人間関係、役割設計)
ただし、
重要なのは、これらが独立していないことです。
互いに影響し合いながら、問題を“動かしている”。
問題は「循環」として悪化する
現場で起きているのは、直線的な因果関係ではありません。
むしろこんな循環です。
- 業務量が増える
- ストレスが高まる
- 人格特性(不安傾向・こだわり)が強く出る
- ミスが増える
- 指導が増える
- さらにストレスが増える
このループに入ると、状態はじわじわ悪化していきます。
精神科医としての実感で言えば、ここで「原因はこれだ」と一つに決めにいくと、ほぼ外しますね。
どれか一つだけを原因とする時点で、すでに見誤っていると言えるでしょう。
なぜ「上司の責任」に集約されるのか
では、なぜこの複雑な構造が、最終的に上司の問題になるのか。
理由はシンプルです。
一番わかりやすいからです。
現場では、次の特徴を持つものに原因が集まりやすい。
- 目に見える
- 日常的に関わっている
- 行動として評価しやすい
この条件を満たすのが「上司」なんですね。
本来は複合的な問題が、
「上司の関わり方が悪いのではないか」
という単一のストーリーに変換される。
これはある意味、人間の認知のクセでもあります。
ハラスメント意識が生む“過剰な萎縮”
もう一つ見逃せないのが、社会的な文脈です。
ハラスメントへの意識が高まったこと自体は、間違いなく必要な変化でしょう。
ただし副作用もある。
現場ではこんな空気が生まれています。
- 指導=ハラスメントではないか
- 厳しさ=不適切ではないか
その結果どうなるか。
上司は止まります。
- どこまで言っていいか分からない
- 関わることでリスクを負いたくない
- 触れない方が安全
つまり、判断停止と回避です。
臨床的に見ると、これは非常に自然な反応ですが、組織としてはかなりまずい。
「関わっても地獄、関わらなくても地獄」
ここに構造的な矛盾があります。
- 関われば「ハラスメント」と言われるリスク
- 関わらなければ「なぜ対応しなかった」と責任追及
どちらに転んでも責任が発生する。
この状態で上司に「適切にやれ」と求めるのは、正直かなり酷な話でしょうね。
つまり問題は、
上司の能力や性格ではなく、役割設計そのものが破綻している
ということです。
現場任せでは必ずこじれる理由
では企業はどうすべきか。
ここでよくある誤解があります。
「上司の判断力を上げれば解決する」
これは半分外れです。
なぜならこの問題、
現場の判断だけで完結する設計になっていないからです。
本来必要なのは、次の切り分けです。
- 医学的に対応すべき問題か
- 指導で改善可能か
- 業務設計の問題か
これを現場だけで判断するのは無理があります。
精神科医として断言しますが、ここは専門領域が絡む。
鍵は「外部の視点を入れること」
したがって必要なのは、
構造を理解した上で、外部の視点を入れることです。
- 産業医
- 人事・労務
- 必要に応じた医療機関
このあたりが関与して初めて、問題は適切に分解されます。
逆に言えば、
ここに専門家が入っていない企業ほど、
- 現場任せ
- 属人的対応
- 問題の長期化
という流れに陥りやすいでしょうね。
まとめ
- 職場のメンタル問題は4要素(病気・能力・人格・組織)の複合体
- 問題は循環構造で悪化する
- 単一原因に還元した時点で見誤り
- 「上司の責任」は認知的な単純化の産物
- ハラスメント意識が現場の萎縮を生む
- 上司は構造的に無理な役割を背負わされている
- 解決には外部視点による切り分けが不可欠
次回は、この構造を前提に、
- 上司は何を担うべきか
- 企業はどんな仕組みを持つべきか
「つなぐ」という視点から、現場で使える具体策を整理していきます。
